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第5話

「何を言うか! 我が国は潤などに守られずとも十分に栄えよう! 葉妃に潤をやると約束したのじゃ! 大国の皇后にしてやると! そなたらは儂に約束を反故にせよと申すかッ!」  なるほど、この時点で皆には全容が見えた。葉妃は龍郭に潤が欲しいと強請ったのか。大国の王に龍郭がなり、その隣に自分を立たせてほしいと。  確かに潤の国は亮の国とは比べ物にならないほどの大国で、実り豊かであり、国力も十分にある。亮の国ではできない贅沢も、潤の国では存分にできるだろう。葉妃の目には欲しかなく、そんな葉妃を溺愛している龍郭は彼女の言うことは何でも聞いてしまう。そして何より、龍郭は自分の意見に反対されることを殊更嫌うのだ。しかしここは柳珠も折れることはできない。折れてしまったが最後、亮の国は滅んでしまう。 「此度は反故にしていただきます! 我が国に財力も兵糧も武器も、何一つないのです。その状態で大国である潤に戦を仕掛けたところで返り討ちにあうばかりでございます! 亮の国を自ら滅ぼされるおつもりかッ!!」 「無礼なッ!! そなた臣下の立場を忘れて慢心したか! そもそもそなたがいながら何故何もない! そなた我が国の財源を横領でもしたのではあるまいなッ」  酷い言い掛かりだ。これほど身を粉にして働き、なんとか国としての機能を保っている柳珠を、自分達の浪費が国を危機に貶めているなどこれっぽっちも思っていない。大国でもなんでもない、潤の庇護があって漸く平穏を保てる亮の財源が、まさか無限だとでも思っているのだろうか。 「横領? そんなものできるだけものもなど既に残っておりません。陛下と葉妃様が使われる銀子がどこから出ているのか、わかっておられないのですか? まさか湧いて出てくるとでも? そんなこと、あり得ません」  龍郭と葉妃の豪遊は高官であれば誰もが知っていることだった。だが龍郭はそれを認めることができない。彼は兄妹もなく、生まれながらにして皇帝になることを約束され、文武百官に跪かれて育ってきたのだ。己が間違っているなどと思いもしない。諫言などは耳障りなだけだ。  龍郭と柳珠が睨みあう。互いに譲るつもりのないそれはいつまでも続くかのように思えた。だがその時、葉妃が立ち上がって龍郭の腕にしなだれかかり、その緊張状態は崩れる。そしていやに甘い声で囁いた。 「陛下ぁ。このような無礼者、陛下のお目に入れるのも汚らわしいですわ。尚書令の言い方ではまるで、私が国を傾ける悪女のようではありませぬか。その様に思われていたなどと、私は……わたくし――……」  涙ぐむ葉妃を龍郭は抱きしめて優しく涙を拭ってやる。その様子を柳珠は静かに見つめていた。そして未来を悟り、一瞬燕薫の方へ視線を向ける。彼もまた柳珠の方を見ていて、合わさった視線に一つだけ頷いた。言葉はなくても、これで通じる。

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