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第93話

 怜のどろどろに濡れた体を見下ろし、綺麗にしなければと起き上がった時だった。  慌てた顔で腕を掴まれ、放たれた言葉に梓は頭を抱える事になる。 「まだ抜かないで」 「は……え?」  不満げに突き出された唇は幼いのに、きゅ、と中をわざと締める行為はあまりに官能的だ。 「ちょ、怜さん……またしたくなっちゃうんで勘弁してください」 「ほんと? じゃあ、しよう?」 「……うわー、もう、怜さーん?」 「まだ離れたくない、から。だめ?」  こんな可愛くてえっちなおねだり、この人はどこで覚えてきたのだろう。  怜の思惑通りまんまとまた硬くなった自身に本気で不安になりながらも、この機会を逃す気は更々ない。 「後悔してもしりません、よ!」 「わぁ! あっ、梓くん……」  怜の体に腕を回し、繋がったまま一緒に起き上がりあぐらを掻いた上に乗せる。 「気持ちよさそうなところ申し訳ないんですけど、ゴム替えたいんで一回抜きますね」 「…………」 「ふは、怜さんがタコになった」  渋々と言った顔で梓の上から降り、その代わり僕が付け替える、と怜はワガママみたいに言った。  どこか儚げで美しく、けれど凛と強く一本の筋が通っている。  そんな彼が実はこんなに表情豊かで、甘えた顔も見せてくれるのだと一体誰が知っているだろう。  それは俺だけでいい、これから先もずっと。  己に根付く独占欲に梓は自分で呆れるが、これだけは譲れないのだから仕方ない。  肩に怜の手が乗って、怜の加減で沈んでゆく感覚に目を瞑って酔いしれる。  今度はどんな風に愛し愛されようか。  怜の頭を撫で、ほろほろと崩れる声に溺れそうになりながら。  怜の心臓の辺りを撫で、敏感な耳に唇を寄せる。 「怜さん、──」  傷痕に零すならありったけの甘い想いを。  この声に乗せたら、僕も、と貴方は返してくれるだろうか。

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