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第92話

 埋めていた指をゆっくり引き抜く時、引き止めるかのように怜の中がきゅうっと締まった。  この数秒さえ寂しそうにする怜の様子に梓は瞳を眇め、手早くゴムを装着する。  ひくつく穴に宛がい、怜の顔の横に両肘をついて額を合わせた。 「怜さん、好きです、好き」 「あっ、あー……っ」  間近に見える怜の濡れた瞳に、チカチカと星が瞬くようだ。  じっくりと自身の想いを教え込むかのように、梓は酷くゆっくりと挿入してゆく。  跳ね返されそうなほどの締め付けを潜り抜け、ついさっきわざと避けたところで一回止まって突くと怜は梓にしがみついた。  顎を上げ、首を晒して感じ入っている。 「あっ! あずさく、だめ、あ、はぁっ」 「だめ? ここきらい?」  そう問いながら抜く振りをすると、怜は慌てて梓の腰を引き止める。 「ちがう、も、あずさくん」 「じゃあ好き?」 「すき、すきっ、おねがい」 「ん。じゃあいっぱいしてあげますね」 「あっ! あ、や、それ、はぁ、すぐでちゃう、あずさくっ」 「ん、イっていいですよ」  怜の腰を掴みながら、前立腺を押しつぶすように突く。  なだらかに盛り上がったそこにめり込むような感覚は梓も気持ちがいい。  すると怜はすぐに空を蹴った爪先を丸め、強張らせた体を弛緩させた。  二人の腹が怜が放ったもので濡れて、うるうると濡れている瞳が瞼に薄く隠れる。 「はぁ……あっ、あずさくん、ちょっと待っ、今だめ、あっ」 「怜さん、ごめんなさい、待てない」  一旦果てた後は過ぎるくらいの快感で辛いのだと分かっているのに、梓はどうも止められそうになかった。  余韻に緩く痙攣する怜の中は梓の猛ったそこを離すまいとするかのようで、少しでも早く奥まで埋めてしまいたくなる。  小刻みな熱い息で見上げて来る怜の頬に触れ、ゆっくり進める。  満たされるような感覚に深く息を吐き奥に到着すると、鼻を啜りながら怜も梓の頬へと手を伸ばした。 「待って、って、言ったのに」 「ん、ごめんなさい。つらいですか?」  こくこくと頷く怜の指がそろそろと梓を撫で、それから首へと回った腕に引き寄せられる。  素直に怜の上に倒れこむと、熱っぽいため息を零しながら頬を擦り寄せられた。 「怜さん……?」 「こうやってくっつくだけでもイきそうになるから、大変、なんだよ? でも、すごくしあわせだなって思うから……梓くんの、好きにされたい」 「っ! もう! 怜さん!」 「あぁっ! あ、あ、んんんっ!」  堪らず奥を強く穿つと、怜は本当にそれだけでまた果ててしまったようだ。  怜を濡らす精液はもう勢いもなくとろとろと先端を濡らすだけで、その様は梓の瞳に卑猥に映る。 「はぁ……怜さん、好き、好きです。大好き」 「あっ、あっ、そんないったら、もっとへん、になるっ」 「ん? 好きって言われるのが気持ちいいの?」 「うん、うん、あずさくっ、ぼくもすき、すきっ」 「はっ、堪んな、」  怜への想いが果てしなく積もるほど、欲情も底が遠のきそんな自分を恐ろしいとすら梓は思う。  泣いてしまいそうな程の想いが怜を求めてしまう。  けれど、留めておけず譫言のように零す愛に怜は体を歓喜に震わせる。  どんな梓でも両手を広げ、怜は受け入れてしまうのだ。  大きく傷つき涙してきた人を守っていきたいのに、優しく包まれているのだから敵わないなと、もっと強く愛していたいと梓は思う。 「あっ、またイ、ちゃう」 「怜さんはさっきからずっとイってますよ。俺ももう、はぁ、イきそうです」 「ん、ん、いいよ、あずさくん、すき、すき」 「っ、もう、俺も変になりそ……んっ」  なるほど、好きと言われる度に体が痺れて、さっき怜が言った事を実感として理解する。  余裕が焼き切れて、怜の奥にもっと入りたいと梓はぐりぐりと押し付ける。  とろけそうに熱くて、それでいて絡みつくように締め付けて来る怜の中の感覚に梓の喉の奥がぐるっと鳴った。  律動を次第に速めると、怜の瞳から散る涙が綺麗だ。  高く鳴きながら差し出される甘い舌に吸いついて、果てそうな瞬間に大きく穿つ。 「怜さん、怜さん、イ──……っ!」 「あ、あぁ、んんんんっ!」  つぶしてしまいそうなほどに抱きしめ、解き放たれた余韻に浸りながらゆったりと腰を振る。  荒い息に弾む胸を重ねながら怜の髪に指を差し込み、体は辛くないかと気遣いたいのに、口を開けばまた「好き」と零れてしまった。  けれどうっとりと微笑まれたのだからきっとこれで良かったのだろう。

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