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ネットアイドル「id」1
近年、10代20代の若者がSNSで盛り上がるトピックにテレビのワイドショーは食いつきがちだ。
朝も明るくリポーターがエンタメ情報を読み伝える。
「今、SNSで大変な盛り上がりを見せてます“ネットアイドル”を追ってみました!」
在り来たりなVTRが流れ、「ネットアイドル」というジャンルを典型的につらつらと説明していく。
(あー…1限からかー……かったりぃ)
あと15分で8時になる。なんとなく点けていたテレビを消して家を出て行く人が多い時間帯、南里 理玖 もその一人だ。
「今1番人気! ミステリアスなネットアイドル」というテロップが出たと同時に理玖はテレビを消した。
理玖は一人暮らしをしているアパートから徒歩10分の場所にある「成堂 大学」の文学部人間心理学科の3回生、早足気味の速度だと自宅から10分以内で正門をくぐる。
スマートフォンをいじりながら歩く人、友人に会って挨拶を交わし笑う人、プリントを見ながら歩いていたら人にぶつかってプリントの束をバラバラに落としてしまった腐れ縁の友人、西村 一樹 、様々な人がそれぞれの朝を迎えていた。
「何してんだよ朝っぱらから」
理玖はため息を吐きながらしゃがみ、慌てて落としたものをを拾い集めている一樹を手伝った。
「理玖ぅ」
「うるせぇ。てか何だよこれ」
拾い集めるプリントを見ながら理玖が尋ねると、一樹はバツが悪そうに笑う。
「えーっと……単位やべぇから補講しとけ? みたいな?」
「おっ前は、いつもギリギリを生きる男だな」
「あざーす」
「褒めてねぇし」
集め終わったプリントを一樹に渡すと、2人は同じ目的地である1限目の教室に共に向かうことになった。そして歩きながら2人はいつものように他愛のない会話をする。
「昨日の“お笑い新世代ダービー”見たか? くっそ面白いのいたんだけど」
「昨日はレッスンのあとバイトして帰ってすぐ寝たわ」
「レッスンって、なんちゃらダンスの? 昨日だっけ?」
「コンテンポラリーダンスな」
「そうそれ! 大学入ってからずっとだよなー、よく続いてんな」
一樹は感心しつつも、少しだけ呆れた声をした。それに対し理玖は「別にいいだろ」と素っ気なく返す。
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