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ハッピーバースデー 6
「いやぁごめんねー。ちょっと電話してたら遅くなっちゃった」
崇一は申し訳なさそうに頭をペコペコ下げながら理玖の向かい側に座る。
もう一人の男性は帆乃の向かいに座り、脇に抱えていた薄いシルバーのノートパソコンを開く。
「南里くん、こちらはidの全ての楽曲を作りをしているコンポーザーの山野くん」
「ちょっとぉ! 山野くんって言うのやめてよねー」
ツーブロックの流し目で男前な顔立ちをした男性は、その容姿からは想像できない口調と声と仕草で隣の崇一の肩を叩いた。理玖は真顔で固まる。
「初めましてん♡ アタシはRorzy って名前で作曲家をしてるの、よろしくねぇん」
「は………はぁ……み、南里 理玖です…よろしくお願いします」
「もぉやっだぁ! そんな緊張しないでよぉ。アタシがヤバい奴みたいじゃなーい」
山野改め、ロージーのペースにやられっぱなしの理玖とは対照的に帆乃は冷静だった。
困っている理玖に崇一は助け船を出す。
「彼は俺とは古い付き合いでね、山野 二郎 でRorzyらしいよ。それにこんな口調だけどちゃんと妻子持ちの子煩悩愛妻家で異性愛者 だから安心してね、南里くん」
そんな崇一の精一杯の助けに対して理玖は「はぁ…」と気の抜けた返事しかできなかった。
自己紹介がひと段落すると、ロージーはノートパソコンに小さいスピーカーを繋いで、スピーカーを理玖たちに向けた。
「idのアルバム、新曲4曲の内1曲だけ歌詞も出来て仮歌も入れてるわ。とりあえずその曲をまず聞いてちょうだい」
ロージーがクリックしてファイルを開くとすぐに音楽が流れた。
バスドラムの刻み、テンポが速いベースが打たれ、エレキギターも加わって、そのリズムと雰囲気はファンクロックだった。
「゛turn up!”、idの新境地よ。egoが加わったことで華のある印象を持たせたいと思ったの」
「turn up」とは直訳すれば「現れる」という意味だ。
崇一に渡された歌詞の書かれたプリントに目を通しながら仮状態の音楽を聴く。
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