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ハッピーバースデー 7

「こ、れを…idが歌うんですか?」  聴き終えた理玖はそう言うと帆乃を見た。帆乃も呆然としている。 「帆乃ちゃんの声って発展途上だから未知数だし、ファンクもイケちゃう気がしたのー」 「ふぁ、ファンク…?」 「アイドル市場でファンクやソウルの曲って聞かないもの。リズムも節も独特で規律を壊す感じ? それが難しいんだけど、ダンスチューンにしたら映えるわよー。帆乃ちゃんにどうしても足りなかった〝華”を生み出せるわ」  不安そうな帆乃にロージーはキラキラとした目を向けて話す。  帆乃は手を口元にやって考えるように下を向いて「華…」と呟く。 「南里ちゃんのバレエはものすごーく華があるのよねぇ」 「へ⁉ 俺⁉」 「華笑に見せてもらったのよー、南里ちゃんが華笑の前で踊った゛ドン・キホーテ”」  理玖は青ざめる。 「は……は⁉」 「華笑のスタジオに初めて来たときに踊ったでしょー? あれ、華笑がばっちり撮影して大切に保管してるのよー」 「やめて! やめてください! 今すぐ記憶から消してください!」  恥ずかしすぎて思わず立ち上がり訴えるがロージーと崇一は微笑ましく理玖を見上げるだけだった。 「人間ってあんなに高く跳べるもんなのねぇ」 「俺もビックリしたよ南里くん。手足も綺麗だし、何より雰囲気が凛々しくてさ」 「マジで…終わった……」  理玖は顔を真っ赤にしてへなへなと萎れる。  そんな理玖を見て帆乃は口を開く。 「ど、どうして、み、南里さん…そ、そんな……その…は、ず、かしい…んですか?」 「え?」  テーブルに伏せってた理玖は少しだけ顔をあげて帆乃を見る。 「み、南里さん、の…ダンス……か、かっこいい…のに……」  帆乃からの「かっこいい」という言葉が理玖の頭の中で何度もリフレインする。顔は更に熱く、赤くなる。 「いや…あ、あの……帆乃、くん…」  「かっこいい」と言った当の帆乃も顔を赤くしてしまう。 「ハナから聞いたけど、コンクール系の踊りの中で南里くんが1番ナルシストになってる演技が゛ドン・キホーテ”なんだよね?」  崇一がニヤニヤしながら言う。 (華笑先生…絶対姉貴から聞いたろ…) 「帆乃くんも今度ハナに見せてもらいなよ」 「え……で、でも……南里さん、嫌がってる、みたい…なので……やめ、ます……」 「あーん、もう! 帆乃ちゃんってばっ! 可愛いわねぇ」  ロージーはくねくねしながら帆乃を見つめる。帆乃はスッと下を向いた。 「帆乃ちゃん、アナタのその受け身で儚いidも魅力的だけど、南里ちゃんのように自信に満ち満ちた表現、そのエネルギーをぶつけるような歌を、カラを破って歌ってほしいわぁ」  ロージーの言葉に帆乃は不安を隠せない。そんな帆乃の姿を見て理玖はキュッと唇を噛む。 「帆乃くん、そんなこと誰に言われなくてもできますよ…」 (なんか、ムカつく)  理玖は背筋を正し、ロージーと崇一を見た。 「idの儚いイメージを凝り固まらせたのはあなた方ですよね? じゃあ帆乃くんとカラオケ行ったことあります? 大好きなアイドルの歌を、アイドル好きなんだなって気持ちがビシバシ伝わったし、そこにアイドル降臨したんじゃねって錯覚起こしたくらいに彼は何でも歌で表現できます。だから言葉でハッパかけなくても、帆乃くんは俺らの想像を軽く超える表現力持ってるんで、あんま帆乃くんを過少評価しないでくれませんか?」 「み……な…さ、と……さん……」  帆乃は顔をあげて理玖の横顔を見つめた。理玖の真剣な眼差しに胸が鳴る。 「南里くん…なんか、ごめん」 「あっらぁ……叱られちゃった♡」  崇一は理玖に気圧されていたがロージーは楽しそうに笑っていた。 「いいわよぉ…その情熱、ス・テ・キ♡」  我に返った理玖は「すいません!」と深々と頭を下げて謝罪した。  そんな理玖をロージーはニヤニヤと見ながら次の話題へ移行する。 「そこまで言うなら、南里ちゃんもidをどれだけ化けさせて世間を驚かせるか挑戦しましょうか」  ロージーはノートパソコンを操作してまた違うファイルを開いた。

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