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ハッピーバースデー 8

 スピーカーから音が鳴る。  今度は激しいエレキギターを掻き鳴らす音、ドラムの早いテンポとラウドロックのサウンド。しかし歌は一向に流れない。 「南里ちゃんにはこの曲を作詞してもらうわ」 「……………へ?」 「締め切りは今月の15日までね。16日から新曲のレコーディング入るから」 「いや……いやいや…え?」 「今回のアルバムからidにはegoというパートナーが制作過程から付くという戦略なのよね社長?」  ロージーは崇一に聞くと崇一は真っすぐに理玖と帆乃を見る。 「そう。MVのダンサーとしてでなく、全ての作品作りにおいてidのパートナーになる。それが俺の考えるegoの存在意義だ」 「ちょっと待ってください! 俺、その…ど素人ですよ?」 「大丈夫でしょ。南里くん大学の文学部ってお姉さんから聞いてるし」 (姉貴ぃ……) 「でも俺は文学部でも心理学を専攻してるんで、表現とか芸術には無縁なんですって」 「あ、勿論帆乃ちゃんにも作詞してもらうわよ♡」  理玖は見事にスルーされた。 「は、はい…」 「帆乃ちゃんの作詞する曲は…と、これね」  ロージーがまた違うファイルを開くと今度はハープの音が聞こえる。雰囲気がガラリと変わりすぎて帆乃は戸惑うが、優しくて明るいメジャーのコード進行が心地よかった。 「…………いつも、と……ちがう」 「え?」 (何がいつもと違うんだ?)  理玖にはさっぱりわからなかった。 「うんうん、帆乃ちゃんよく分かったわね。今までのidとは違う…けどパートナーのegoがいる今なら歌詞が書けるはずよ」  帆乃は少し笑って頷いた。もうメロディーを捉えて鼻歌を口ずさむ。帆乃の理解の速さにロージーも嬉しかった。  1番が終わって間奏になり、帆乃はちらりと横を向いた。目を閉じて見上げて音に集中する理玖の凛々しく美しい横顔があった。 (王子様みたい……この人が本当に俺のパートナー……俺は…)  帆乃は視線を戻して少し目を閉じ、理玖と一緒にハープの音色を聴いた。  そんな帆乃の姿にロージーは青春のもどかしさを覚える。

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