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ハッピーバースデー 9

 その後、理玖はマックスレーベルとの契約手続きを済ませると、作詞という難題な宿題を与えられ解散となった。  まだ午前11時50分、快晴だった空が少し曇り始めてしまっていた。ジメジメとした不快な湿度も増している。  理玖と帆乃はあてもなく渋谷方面へ歩いていた。 「帆乃くん、お腹空かない?」 「え……あ……は、い……少し、だけ……」 「よかったらー…そのー…昼飯、一緒に食べない?」 「…で、でも……その……」  何故か帆乃は頬を赤くして下を向いてしまった。  ジリジリと暑いからか帆乃の白い肌にも汗がじんわりと浮かんで、うなじが艶っぽく見えてしまい、理玖はゴクリと唾を呑む。  その瞬間、理玖は自分で自分の顔をしばく。バチンという破裂音に帆乃は驚く。  「あああああ!」と天を仰いで叫ぶ理玖の行動は異常なもので周りの人の注目を集めたが、理玖の心中はそれどころではない。 (違う違う違う‼ 違うんだってば‼ そーじゃねえっつの‼ 俺は何を考えた⁉ 帆乃くんのうなじ見て「エロ…」とか思ってねぇから‼ 違う! 帆乃くんがちょっと小さく…いや小さくねぇ! 俺が無駄にノッポ(※184cm)なだけで帆乃くんは極々普通の男子高校生! ちょっと歌が上手な男の子! それに、あの如何にもだっさい厚底瓶みたいな眼鏡にモテ要素は皆無だから!)  視線を少しだけ帆乃に移すと、厚底瓶眼鏡のレンズ越しに帆乃が驚く瞳が見えて恥ずかしくなった。 (可愛い…じゃない! 違う!) 「そーぉだー! あいつら呼ぼう! ちょっと渋谷は日曜で混んでっし俺んチの最寄りだったら空きまくってるから…そこにしよう! 帆乃くんも人混みとか苦手でしょ?」  不自然に大声で提案する。帆乃は圧倒されて「は、はい…」と頷いた。  渋谷から笹塚までバスで向かい、京王線に乗ると都内からどんどん離れていく。 「………もしかして、遠くて引いた?」 「いえ………」 「俺ら大学の近くだけど、家賃やっすいとこだからさ。大体毎週都内には出てるんだけど、渋谷だと100円ケチって笹塚まで歩いてったりしてー…って興味ないか」  沈黙が妙に嫌で理玖は無理やり会話を繰り出していた。 「あ、の…その……お、俺…ら、来年…大学、だから……さ、さ、参考になり、ます……」  帆乃は理玖をフォローするように返事をした。それに理玖は胸を撫でおろす。 「いや…俺らは参考にしない方がいいよ。俺はフラフラしてっし、鈴野は万年金欠だし、一樹は単位ギリギリだし」 (あれ、何か言ってて虚しくなってきたぞ)  理玖は自分たちに呆れて空笑いしてしまう。 (楽しそう…南里さん…)  帆乃が羨ましそうに見つめていたことに理玖は気が付かなかった。

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