166 / 175

真夏の逃亡 27

 全力で走って走って、改札を抜けて、丁度ホームに到着した電車に乗ると、車内は空いていた。  息を整えながら2人は隣り合って座る。 「き、鍛えててよかった…」  地味に運動音痴の理玖の心臓はバクバクと鳴りやまない。帆乃は涙を拭ってまだ震える手を押さえようとする。  その手を支えようと理玖が帆乃に触れたときに、反対の手に持っていたスマートフォンが連続で振動する。 『今どこ?』 『とりあえず綾瀬に向かえ』 『あと彼氏くんのスマホかケースに何か仕掛けられてないか確認しろ』  メッセージを連投してきた送信者名は「カドマツ」だった。 「カドマツ…? 何で……」  忘れた頃に登場した友人に疑問を抱きつつ、最後のメッセージ、というか指示にとりあえず従うことにする。 「帆乃くん、スマホ見せて」 「あ……はい…」  理玖はカドマツからの指示に従い帆乃のスマートフォンをお揃いで買ったケースから取り出す。念入りに見るが特に変わった様子もなかったので、「何もないけど」とカドマツに返信する。 『彼氏くんの電話番号』  ぶっきらぼうに次のメッセージが来る。 「はぁ? 何で?」  理玖は疑問を送信した。 『中にGPS仕掛けられてる可能性あるから俺がハッキングして確認する』  理玖が嫌そうな表情でそのメッセージを見つめていたら、帆乃は心配になってついつい理玖の画面を覗く。 「ハッキング…ですか……」 「あ、あぁ…でも嫌だよね、こんなこと」 「大丈夫です」  帆乃はあっさりと答えると、自分の番号を確認しながら理玖のメッセージ画面に番号を打ち込んでカドマツに送信した。 「帆乃くん…」 「………俺は、理玖さんたちを信じてます。それに…カドマツさんって方には前にも助けてもらいました」 「は? カドマツが?」 「はい。一樹くんと唯ちゃんが、俺を助けてくれた日…カドマツさんが、その…色々やってくれたらしくて、俺と…理玖さんも、守ってくれたって、一樹くんから教えてもらいました」 「そ、そうなんだ…」  意外なところに接点ができていた、理玖はその事実に驚くと同時に少し嫉妬をしてしまう。独占を示すように帆乃の手をギュッと握ると、またカドマツからメッセージが来た。 『GPSが仕込まれてた』 『今遮断して狂わせた』 『ついでにお前のもな』 『常磐線に乗り換えて北柏(きたかしわ)』 『迎えに行く』  次々と送られてくるメッセージに強制力を感じた理玖はひとつの答えを導いた。 「姉貴…」 (まさかあのカドマツまで掌握してんのかよ……一体何した…) 『お前の姉にはツイニャン☆のライブ最前確保してもらった恩義があるんでな』  まるで心を読まれたかのようにメッセージが送られて理玖は「うぜぇ怖ぇ」と呟く。そしてため息を吐いてドアの上にある路線図に目を向けながら帆乃に話す。 「帆乃くん、大丈夫だよ…行先は俺のもう一つの実家みたいなとこだから」 「えっと…遠く、ですか?」 「そこまで遠くはないけど、逃げるには絶好の場所かな」 「……理玖さん…あの…」  帆乃は申し訳なさそうに眉を下げ、顔も上げられなくなっていたが、理玖はその言葉を制止させる。 「俺は帆乃くんと一緒なら、何も怖くないし、何でも嬉しい」 「………理玖、さん…」  帆乃はまた涙がポロリとこぼれた。

ともだちにシェアしよう!