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第1話

 希望(のぞみ)は悩んでいた。  世間は恋人たちの一大イベント、バレンタインを一ヶ月後に控えている。普段なら、当日まで予定を詰め込んで、始まる前から終わった後の余韻まで、最大限イベントを楽しむのが希望である。  しかし、希望は自分の所属する芸能事務所の待合室で、ライの迎えを待つ間、頭を抱えていた。      ライさんに、何をあげよう?      希望の恋人であるライは、甘いものが嫌いだ。  チョコはもちろん、ケーキもクッキーもあんこも、飴もマシュマロも。  あとラブラブな恋人同士の甘くて優しくて蕩けるようなピンク色の空気も大っ嫌い。  希望は甘いものが大好きだが、ライは、とにかく甘いものが嫌い。  ついでに人が多くて騒がしいのも嫌い。    お気づきだろうか。  バレンタインはライの嫌いなものが両方揃っている。    希望としてはこのチョコの香りに包まれて、甘く蕩けるような空気の中でデートしたい、チョコいっぱい食べたい、お互いにあーん♡なんてしちゃったりして! きゃー♡  ……などという夢見ているけれど、そんなことしたらライが死ぬかもしれない。  さすがに死にはしないかもしれないけど、いや、でも、ライという男は愛に関するすべてに対してのアレルギーが酷いから、本当に死んでしまったらどうしよう。ライさん、死んじゃやだ。    そういうわけで、希望はライへのプレゼントを悩んでいた。      ああ、ライさんが甘いもの嫌いじゃなければ。  おれは大好きなのに。チョコもケーキも、恋人との甘くて蕩ける優しい時間も。       「……!! そうだ!!」    テーブルに突っ伏していた希望は、ガバッと顔を上げた。 「ど、どうしました!?」 「あ、なんでもないです! ごめんなさい!」  ちょうど待合室のすぐそこの廊下を歩いていたマネージャーの優が慌てて駆け込んできたので、希望はすぐに謝った。  けれど、希望の頭上にはお星様が煌めいている。  希望は閃いてしまった。    おれがチョコをもらえばいいんだ!  だっておれはチョコ好きだし!  おれがライさんからもらったっていいはずだ! ライさんの彼氏だもん!  ライさんだってあげたいはずだ!  ライさんはおれのことが好きなんだから!!    希望は先程までの重い悩みが消え失せて、実に晴れ晴れとした清々しい気分であった。  待ち合わせの時間になったのを確認して、希望はにこにこしながら、ライの待つ駐車場へ向かう。  心なしか、身体が軽い。羽が生えたようだった。    もしかしたら、ライさんも準備してくれてたりして!?  わぁ! 楽しみだなぁ! ハッピーバレンタイン♡      この時希望は、自分がライからチョコをもらえると信じて疑っていなかったのだ。

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