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第4話

 希望が事務所のテーブルの上に突っ伏している。  一ヶ月前にもこんな光景を見たなぁ、とアキは思ったが、そっと見守った。  希望には大変申し訳なく思うが、正直に言うと、希望が「今年のバレンタインはライさんにチョコもらうの!」と張り切っていた時から、こうなるような気がしていた。 「逆に、なんでもらえると思ったの?」 「唯、静かにして。やめて。やめてってば」  先ほどから唯が希望をつついている。アキが時々払いのけるが、希望は突っ伏したまま動かなかった。 「今どういう気持ち? なあなあ、どういう気持ちなの? バレンタイン敗北組って」 「唯あっちいって」 「……かなしい……」    ケラケラ笑っていた唯と、そんな唯の手を払いのけて希望を守っていたアキが、希望を見る。  希望は突っ伏したまま、ぽつりぽつりと呟いていた。 「バレンタイン、いつも楽しかったから知らなかった……。チョコいっぱいもらってたし……。チョコもらえなくて『バレンタイン滅べ』とか言ってる人見て、「そんなにチョコほしいなら自分で作ったり買ったりしたらいいのに、楽しいのに」とか思ってた……」 「お前のそういうとこ、嫌いじゃないぞ」 「でも、みんなきっと好きな人からチョコがほしかったんだね……。おれとおなじ……」  希望の瞳にじわりと涙が滲む。アキは希望の心境を思いやり、「希望くん、なんて可哀想なの……!」と同じように涙を浮かべていた。唯だけは「なんだこいつら」という至極冷静な目で交互に二人を見ている。 「好きな人の本命チョコほしかった……」 「いや、だからなんでくれると思うんだよ。あの男が」 「チョコ……」 「だからさぁ……、……?」  希望がゆっくりと顔を上げた。  希望らしくない、覇気のない動きである。ゆらり、と不穏に揺れている希望を、唯とアキは思わず見守った。  希望がゆっくりと、携帯を取り出した。俯いたまま画面を操作しているのも、不気味だ。身体が左右にふらふらと揺れている。  画面の操作が終わって、希望がじっと画面を見つめている。  二人が画面に映っているものを確認する前に、希望は人差し指で画面の『購入』ボタンに触れていた。     「……絶対に、チョコ、たべる」

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