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第10話
希望が大人しく床に座り込んだまま待っていると、しばらくしてライは戻ってきた。
ライは再びソファに座り、テーブルに持ってきたマグカップを置いた。
希望が覗き込んでみると、甘い香りがした。チョコが入っている。
昨日のようにミルクとラム酒を混ぜて飲みやすくしたホットチョコではなく、溶かしただけのチョコだ。
「??」
希望は座ったまま、テーブルのマグカップとライを見比べて首を傾げている。
ライはおもむろに、人差し指と中指をマグカップの中に突っ込んだ。
「!?」
希望は驚いてライを見上げた。
けれどライは無言で人差し指と中指でチョコを掬い取って、チョコを纏った指を希望に差し出した。
「ん」
「?! ……えっ?!」
希望は差し出された指先と、ライを交互に見つめて、目を丸くしていた。
「チョコ」
「?」
「チョコ、かけてたべるんだろ」
「……あっ……!」
昨夜の自分の発言と目の前の光景に、希望は真っ赤になった。
まさか実現するとは夢にも思っていなかったから、目の前のチョコまみれの指先を見つめて、ただ震えている。
そんな希望の唇に、ライが指先を押しつけた。
「んんっ……!」
「ほら、どーぞ」
「……うっ……うん……」
希望は意を決して、ぱくんっとライの指を咥えた。
チョコの甘さが口に広がっていくが、恥ずかしくて指先だけちろちろ、と舐めることしかできない。
チョコが垂れてしまいそうで、両手をライの手に添えて、少し深く咥える。ちゅう、と少し吸って、丁寧にチョコを舐める。
口内で感じるライの指の太さ、ごつごつとした関節は情事の時に自分の奥を暴いて慣らして、抉るものと同じであることに気づいてしまって、希望は頭がくらくらしてきた。
恥ずかしくて目を瞑ると、それだけ口の中の感覚が研ぎ澄まされて、じくじくと熱が呼び起こされてしまう。
な、なにこれ……。
希望は恥ずかしさと淫らな欲望を振り払うように、一生懸命チョコを舐めて指をしゃぶっていた。
***
希望が恥ずかしさに頬を染めて、それでも味わうように目を瞑り、時折ライを上目遣いで見つめる。
ライはその扇情的な光景を見下ろして、考える。
……なにこれ。
ライは首を傾げた。
あむあむ。ちゅぱちゅぱ。ぺろぺろ。
希望が懸命にチョコを舐めとる姿に、残念ながらライは特にこれと言って欲情を感じなかった。強いて言うなら、ライのものを咥えて奉仕している姿と重なるかもしれない。
二本の指でこれほど苦戦しているのだから、指何本分も大きいものを咥えるのが下手なのも頷ける、とライは納得した。
だから、なおのことライには不思議だった。
どっちにしろ下手くそなんだから、直接咥えた方がまだエロくない? なにこれ。
こんなものか、とライは僅かな失望を抱きながらも希望を眺める。
希望は懸命に指を舐めているけれど、何が楽しいのだろうか。あんなにしつこく言っていたから、もっと期待していたのに。
眺めているだけのライは暇を持て余していた。
けれど、指先の希望の柔らかく熱い舌の感触に気づいて、不意に人差し指と中指で表面を擦る。
「ふぁっ」
希望がびくっと身体を震わせた。擦られた舌をてらん、と出したまま目を丸くしている。
ライは構わず、舌を指先で擦り上げ、指を奥へと突っ込んだ。
「うぇ、んあっ……?!」
指が奥まで来たことに驚いて、希望がライを見つめる。
指が無防備な口内の奥に侵入したことで、目尻に涙が滲んで、驚きと不安で揺れていた。
ライが何度か舌や口内を擦ると、その度に希望の身体がびくびく、と震える。ライの手に添えられていた手が必死に止めようとするが、びくともしない。
開けられたままの希望の口から、チョコと唾液の混じったものが零れていく。
「んぁっ、んんっ、ふぇ、うぇっ……!」
喉の近くまで指に侵入されて、希望は僅かに嘔吐く。
ライはその苦しげな表情を眺めていた。
……なるほど。
ライは一人納得すると、希望の口内から指を引き抜いた。
「んぁっ……はぁ、はぁっ……?」
苦しさから解放されて、希望は荒く呼吸を繰り返す。
今何が起きた、何をされた、と混乱しつつ、不安な顔でライを見上げる。
ライはまた指でチョコを掬い上げた。
そして、じっと、希望を見つめる。表情は変わりないが、いつも暗く鋭い瞳が、どこか楽しそうに爛々光っていた。
「えっ、えっ?! んぅっ!! ……ふぁっ……!」
再度指を突っ込まれて、希望はライの腕を掴むがそのまま押し倒される。
ライの指は今までよりも激しく口内を犯した。
「ふぁっ……! やっ、らぁ、んぁっ……!」
舌の奥、頬の裏、顎の上下、口内を余すところなく、チョコを塗りたくるように擦り上げる。
飲み込めない唾液とチョコが希望の唇を汚して、零れていく。
ライが指を引き抜いた。突然解放されて、希望は慌ててライを押し返す。
「な、なんで、なにすっ…んんっ……」
希望の唇から零れるチョコを、ライが舐めとった。
そのまま希望の顔を両手でしっかりと抑えて、唇を奪い、吸い上げる。
「んぅ、んっ! ンンッ!? ふっ、ンッ……~~っっ!!」
口内を舐められて、舌をがぶりと噛まれて引きずり出され、強く吸い上げられる。
希望はもう何が何だかわからなかった。
ライはチョコが嫌いなはずだ。甘いものが嫌いなはずだ。
それなのに、口内のみならず、唇や顎まで流れていったチョコも舐めとられる。勢い余って食いつかれてしまい、希望はびくっと震えた。そしてまた、口内を蹂躙されていく。
激しく吸い上げられる音やチョコと唾液が混じり合い濡れた音が響き、キスをしているのか食べられてしまっているのかわからない。
口内のチョコの味が薄れた頃になって、ようやくライが離れた。
逃げようとしたが、希望はもう腰砕け状態で、僅かに身体を起こし後ずさることしか出来なかった。
「ラ、ライさ、……え?」
希望がライを見ると、ライは再びチョコを指に纏わせていた。
後ずさった希望を見て、僅かに開いた間合いを、じりじりと詰める。希望の胸ぐらを掴んで引き寄せ、再びのし掛かる。
「あっ、ま、まって、も、もう…! んんうっ!?」
咄嗟に口を閉じようとしたが間に合わず、無理矢理指をねじ込まれる。
「うっ、ぅぅんっ! うぇっ、ふぁ……っ、んあっ……!」
再び、チョコの甘さと香りが満ちていく。口内を蹂躙され、喉まで届く太い指に嘔吐きながらも、舌を撫でられるとぞくぞくしてしまう。
息苦しさに涙で滲んだ視界で、ライが笑っている。
その唇は、希望と同じようにチョコで汚れていた。
それがまるで、獰猛な獣が獲物に喰らいついた後の血塗れの姿のようで。
……あっ、なんか、すっごくえっちだ……!
この獰猛な獣に狩られるのは自分だとわかっている。
けれど、希望は恐怖とときめきで、心を震わせた。
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