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第9話
「ごめんなさぁいっ!」
「……」
翌日、昼過ぎまで眠りに落ちていた希望が起きて、開口一番に叫んだ。
寝室から出てきた希望は最初、いつもより長い眠りだったのせいかぼんやりしていた。
けれど、ソファに座っているライを見つけると、じわじわと表情を変えて、身体を震わせて「ごめんなさぁい!」と叫び、ライの目の前に飛び込んできた。
今は、ライの目の前に滑り込んで、小さく丸くなり頭を下げている。土下座のようにも見えるが、殴られるのを恐れて丸まって怯えているのだろう。
ライはソファに座ったままそれを見下ろしていた。床に座り込んだまま、希望はぷるぷると震えている。
体つきから立ち振る舞いからして運動はできるだろうと思っていたが、希望にここまでの瞬発力があることにライは感心していた。
猫みてぇだな、と思いながら眺めていると、希望はゆっくり頭を上げた。顔は俯いたまま、しおしお、と項垂れている。
「昨日、変なこと言ってごめんなさい……」
「……別にそれはいいんだけどさ」
ライの言葉に希望はぱっと顔を上げて目を丸くした。
「怒ってないの!?」
「イラッとはしてた」
「そ、それは怒ってるのでは……?」
「別に昨日のことはどうでもいいよ。回りくどいんだよお前」
希望は何のことかわからない、とでも言うような、ぽかん、とした顔で首を傾げた。
ライはやっぱり少しイラッとした。
「チョコほしいなら普通に強請ればいいだろ。なんだよあの紙の束。あんなもん寝ないで作ってるからバグったんだろ」
「あぅぅ……」
希望はじわぁっと瞳を潤ませた。ライを見つめて、あうっあうっ、と一生懸命弁解しようと口を開く。
「だ、だって、ライさん意地悪だし、天邪鬼だし、性格もねじ曲がってるから、普通にお願いしてもチョコくれないと思ってぇ……ふぇぇ、ごめんなさぁい……」
「すげぇなお前。それで謝ってるつもりかよ」
「超反省してる……」
「そうかよ」
日頃のライへの不満を滲ませた弁解だったが、希望は反省しているらしい。
しょんぼり、と項垂れて、日頃は凜々しいつり眉が垂れ下がっている。
「……おれ、仕事忙しくて、寝不足で、それでライさんからチョコもらえないと思ったら悲しくて、頭の中ぐるぐるしちゃって眠れなくって……気づいたら、あっ…あんなことっ……!!」
希望は昨夜のことを思い出したのか、かぁぁっと頬を真っ赤に染めた。
「えっちなこと言ってごめんなさぁぁい!!」
希望がぴゃああんっと叫んで謝っているのを見下ろして、ライは考える。
……エロいこと考えてたのか。やらせてみればよかった。
昨夜の希望の「ライさんにチョコかけてたべる」という発言のどこに性的な要素が含まれているのか、ライにはさっぱりわからなかった。
わからないから、ライの好奇心が再び刺激される。
希望は正気に戻っしまったようなので、今更やらせてみることは難しいだろう。惜しいことをした、とライは少し後悔した。
いったい希望は何をしようとしていたのか。
「チョコかけてたべる」という行為の、何をどうしたらエロいことになるのか。
非常に興味深い。ますます気になる。
どうにかしてやらせてみたい。さて、どうしようか。
ライは少し考えて、希望を置いてキッチンへと向かった。
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