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scene02-04 ★

「ん……」  ゆっくり掻き回すとクチクチと濡れた音が立った。少し圧をかけて内壁を押し広げ、スムーズに指を動かせるようになったところで、薬指を添えて同じことを繰り返す。 「ぅ、あッ!?」  ある一点に差し掛かったとき、誠が背中を大きくしならせた。 「ここ?」  クイッと指を曲げて、反応を示した場所を叩くように刺激を与えれば、すぐに悩ましい声が返ってくる。 「あっ、そこ、やだあぁっ」  未知の刺激から逃れようと、誠が腰を動かす。が、すぐに引き寄せてやった。 「逃げるんじゃない」  体を抱え込むようにして執拗に責め立ててやる。こうなってしまえば、誠は両膝をガクガクと慄かせて身を委ねるしかない。 「や、ぁっ……ヘン、そこヘンだからぁっ」 「変じゃなくて気持ちいいんだろ?」  再び膨れあがった昂ぶりを見るからに、どうやら快感を感じているらしい。  ローションを追加させつつ、内壁を弄る指を増やす。先日の反省を踏まえて入念に解していくのだが、いよいよ衝動が抑えられなくなってきた。 「誠、そろそろ……」  誠が肩で息をしながらコクンと小さく頷く。それを受けて指を引き抜き、熱く滾った自身を取り出す。  避妊具のパッケージを開けて、中のゴムを装着しようとしたところで、誠がじっとこちらを見ていることに気づいた。彼は眉根を寄せながら口を開く。 「ソレ使うの?」 「この前、ちゃんと後処理しなかったせいで腹下してただろ」 「あ、そっか」  気まずそうに目を逸らされた。己の体内に注ぎ込まれたものを思い出したのだろう。  配慮が足りなかった自分も自分だが、あのときの誠は見ていて気の毒だった――反省しつつ避妊具を装着し終える。  誠の膝を上げると、先端を宛がってアイコンタクトを交わした。狙いが定まったところで自身をゆっくりと沈めていく。 「んっ、うぅ……」  苦悶の表情を浮かべ、誠がくぐもった声を漏らす。 「痛かったら、爪立てていいから」  頬に口づけながら言ったら、シーツを握っていた誠の手が背に回された。爪を立てられる痛みとともに、小さな震えが背中から伝わってくる。 (本当は傷つけたくないし、大切にしたいのに)  頭を撫でて気遣うも余裕はさほどない。腰を押し進めれば、柔らかな粘膜が絡みついてきて、蕩けそうなくらいに気持ちがいい。 「もっと、来てへーき……前より痛くない、からっ」 「ああ」  理性を奪いかねない言葉を受けつつ、なおも慎重に奥を目指す。 「う、んんっ……」  互いの息が荒くなっていくなか、やがて自身が誠の体内にすべて収まる。  衝動を抑えてしばらく動かないでいると、粘膜が己の形に合わさっていく感覚がした。  確認するように、また視線を交わしてから静かに腰を振り始める。 「んっ、あぁ……っ」  熱い内壁がひくつきながら締めつけてきて、自身を離さない。  自制心も限界だった。誠の腰を抱え込むと、体内を抉るように突き上げた。 「あっ! や、ぁっ……ああッ」  零れ落ちるのは熱っぽい声だ。腰を送り込むたびに、誠は体をビクビクと震わせる。 「ん、あっ……だいきっ」  背に爪を立てていた誠の手が、ふっと浮く。かと思えば、しがみつくように抱きしめてくるものに変わった。  こうなれば遠慮はいらないだろう。腰の動きを速め、欲望のままに誠を揺さぶった。 「あっ……ン、ああっ」  潤滑油がグチュグチュと卑猥な音を響かせる。そこに肌がぶつかる音や、ベッドの軋む音が加われば、否が応でも情欲が掻き立てられるというものだ。  もっと追い立てたい、愛らしく乱れる姿を見たい――誠が鋭敏に感じていた場所を思い出し、狙いをつけて打ち付けると、その体が大きく跳ねた。 「やぁあッ! んぁ、や、そこだめぇッ……」 「また変か?」 「やっ、あッ……きもちい、きもちいいからぁっ」  咥えこんだ大樹をきつく締めながら、誠は告げる。瞳はすっかり濡れていて、快感に溺れているようだった。 「それなら嫌じゃないだろ」 「ん、あっあ、やっ、ああぁ……っ」  箍が外れたように己を穿っていく。そのうえで、体液でまみれた誠の屹立を扱けば、聞こえてくるのはもう淫らでしかない喘ぎ声だ。 「あ、あンっ、も、こんなむりっ」 「いいよ、イッて」 「っあ、やああぁあッ……」 「っ……」  誠が熱い飛沫を二人の間にまき散らし、あとを追うように大樹も腰を叩きつけて欲望を開放する。  誠の体に絞り取られるように最後まで出し終えると、避妊具を押さえながらゆっくりと屹立を引き抜いた。 「ソレ、やっぱいらないかも……これからはちゃんと洗うようにするから」  ティッシュで後処理していたら、そんな言葉がかけられたのだった。  行為を終え、二人で身を寄せて――大樹が誠の体を後ろから抱きしめる形で――狭い浴槽に浸かる。  互いの体液を洗い流したところで、やっと落ち着いた。誠が思わぬ言葉を発したのは、そんな頃合いだった。 「で、大樹とは恋人として付き合ってるって思っていいの?」 「……え」  思わず間の抜けた声が出た。 「いや、こーゆーのって『好きです。俺と付き合ってください』みたいなのがあって、初めて付き合うのかなって」  どうにも、以前受けた告白がちらついてるらしい。少し嫉妬しつつも、きちんとした言い方で告げることにした。 「誠のことが好きだよ。だから、俺と付き合ってください」  低く囁けば、その耳が徐々に赤くなっていく。 「は、はい、よろしくおねがいします」 「お願いします」  あまりにも甘ったるいやり取りに、つい笑ってしまった。 (話ができすぎている……幸せすぎて少し怖いくらいだ)  異性と恋をし、結婚し、子供を作る。それが誠にとって当然の幸せだろう――と、いつの日か手離す覚悟でいた。  しかし、彼は手を伸ばして引き留め、疎いながらも生まれたばかりの淡い感情を育んでくれている。どの程度の想いなのかはわからないし、ふとした瞬間に夢のように醒めてしまうものかもしれない。だとしても、 (もう、誰にも渡したくない)  今はまだいいが、五年後、十年後、その先……自分の隣にいて、彼は笑っていられるのだろうかという不安はある。  けれど、求めるものは何だって与えるし、周囲に負けないくらい幸せにしてやりたい。  だからどうか離れないでほしい――そのような想いを胸に、大樹は愛しい相手を手離さないよう、力を込めて抱きしめるのだった。

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