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scene13-04 ★
「痛くても知らないぞ」
「ん、いい……」
少しの間のあと、大樹が服を脱ぎ始める。誠はどぎまぎしつつ横になった。
「本当に知らないからな」
念を押すように大樹が言う。
その後、反り立った屹立が宛がわれて、緩慢な動きで潜り込んできたのだった。
「あッ、あぁあっ」
まだ慣れきっていない窮屈な体内が、熱い楔によって広げられていく。圧迫感がいつもよりひどかった。
「誠、これキツいだろ」
「へーき、だってばぁ」
何度も「やめないで」と、うわ言のように繰り返す。内臓が押し上げられるような苦痛を感じるものの、それ以上に体は彼のことを求めていた。
「ゆっくり挿れてやるから急かすな」
「やだ、って――はやくっ……大樹のデカいので、いっぱいにしてよっ」
あまりのもどかしさに言うと、小さな舌打ちが聞こえた。
「煽ったのはそっちだからな」
両膝を持ち上げられて、大樹の肩に抱えられる。結合部が見えたかと思えば、一息で深々と貫かれた。
「ああぁあッ?」
一瞬で目の前が真っ白になって、誠の屹立から白濁が噴き出す。突然の絶頂にくらくらと眩暈のような陶酔感が襲ってきた。
「っ、バカ犬……」
内壁が大樹のことを力強く締めあげていた。彼の硬い感触を意識すれば、体の熱が卑しい感情とともに蘇ってきて、どうしようもなく欲情してしまう。
(なんか今日、おかしい)
二度の絶頂を迎えたというのに、自身は依然として力を保っている。
いつから自分はこんなにも情欲に溺れていたのだろうか。そんなふとした動揺も、荒々しい律動が始まれば、すぐに快楽の渦へ飲み込まれていく。
「あ……あっ、だめ、イッたばっかッ」
「やめていいのか?」
「や、ぁあ……やめないでっ」
「どっち」
「や……してっ、もっと……もっとほしいっ」
「バーカ。――バカで可愛いヤツ」
大樹がククッと笑いながら、腰を振ってくる。
絶頂の余韻そのままに、誠は息を弾ませて喘ぐことしかできない。思考も体もぐずぐずになって、どうにかなってしまいそうだった。
「あ、あぁッ、そこ、いい……っ」
敏感に感じやすい箇所を小刻みに抉られれば、衝動が急激に膨れあがって、意識が散り散りになる感覚に陥っていく。
己の欲望が解放されるのも、時間の問題だった。
「あっ、あ、イクッ、イクぅ!」
射精感に下半身を震わせていたら、大樹の手が屹立に伸びてきた。根本を握り込まれ、昂るものが塞き止められてしまう。
「おあずけだ」
「あ、やだ、離しっ……」
「そんなすぐ出してたら、堪ったもんじゃないだろ」
その状態でガクガクと揺さぶられて、荒々しい抽挿を受ける。行き場を失った熱が出口を探して彷徨い、止めどなく押し寄せてくる快感が苦しくて仕方がない。
「あ、ン! も、むりっ、むり、おかしくなる……ッ」
「頼むから、そういった顔を他のヤツに見せるな。俺だけにしておいてくれ」
「だ、だいきだけっ……ぜんぶ、だいきだけの、ものだからあっ!」
「……わかったよ」
「ッ、あぁっ!」
屹立を掴んでいた手の力がふっとなくなって、体を痙攣させながら熱を吐き出す。
抑制されていたものが一気に解放された衝撃で、脳裏に火花が散った。全身が得体の知れない何かに支配されているようで、体のどこにも力が入らない。
「さすがに早すぎ。俺がまだだろうが」
大樹が失笑する。こちらの両足を抱えなおすと、最奥まで容赦なく突き上げてきた。
「やああぁあッ!?」
ガクンッと大きく仰け反って、悲鳴じみた嬌声を喉奥から絞り出す。
射精後の余韻に浸っている間もなく、荒っぽく腰を使われれば、大樹の欲望のままに身を任せるしかない。
やがて注ぎ込まれた熱を感じながら、誠は眠るように気を失ったのだった。
しばらくして意識を取り戻すと、大樹が一番に体の心配をしてきた。
(それはお前が言うことか!?)
と思いつつも、少しばかり足腰が立たない程度だったので「大丈夫」と答え、バスルームで一緒に体を洗い流すことにした。
ホテルのジェットバスは、二人で入っても余裕があるほど広い。横には小型の液晶テレビが設置してあり、何気なく電源を入れたら全裸のAV女優が大きく映った。
「うげ」
ぎょっとする誠に対して、大樹が真顔で口を開く。
「見る?」
「見ねえよッ!」
噛みつくように返し、慌ててチャンネルを変えた。まだ朝のワイドショーがやっている時間帯だった。
「今日のお前、本当にすごかったな」
「あ、あれはっ」
大樹の言葉に頭が沸騰しかけたが、すぐに後ろめたいことに気づいて俯く。
「あんなふうに反応するの、大樹だけだと思ったのに」
「……あのとき、何か飲んでなかったか?」
「え?」
「誠は知らないかもしれないけど、性欲を高めるような薬があるんだよ。風間さんの態度から考えるに、どうせ飲み物にでも盛ってたんだと思う」
そう聞いて、大きく息をつく。
「よかったあ~。大樹のこと裏切るかと思った」
「大丈夫だよ。お前がそういうヤツじゃないことくらい知ってる」
「ん……でも、また不安にさせちゃってごめん。ちょっと俺もビビったし、風間さんとはちゃんと距離取って、もうこんなことにならないって約束する」
「まあ、次があったらタダじゃ済まさないけどな……あのキノコ頭」
(うわ、これはマジでヤバいやつだ)
ハハハと乾いた笑いを返しながら、話題を変えることにした。
「あっ、そういやハラへったなあ」
「それなら、どこかでモーニングでも食べていくか。食いたいものある?」
「はい! パンケーキ!」
「わかった。近くにいい店がないか調べておく」
言って、苦笑を浮かべながら、
「にしても、ラブホテルだってのに色気がないな。しかも初めて来たのに」
「す、することならもうしたじゃんか」
「俺はまだしてもいいけど?」
「ばっ!」
バカ、と言いかけた口を唇で塞がれる。あまりに唐突なことに、誠は目を見開いたまま固まってしまった。
大樹は唇を離すなり、イタズラっぽく微笑む。
「冗談だよ」
「っ!」
「誠、顔真っ赤」
「くううぅ~……っ」
(そーゆー恥ずかしいコト、平然とやってのけるからコイツは~っ!)
ぶわりと体の熱が上がっていく。先ほどまで感じていたのとは違い、こそばゆい気持ちで胸がいっぱいになるような熱に浮かされていくのだった。
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