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scene19-06 ★

「ッ!」 「ね、やらしい顔してるのわかります?」  焦点の合わない潤んだ瞳、朱に染まった頬、だらしなく開いた口……なんて恍惚とした表情なのだろう。  顔を背けようとしたが、雅は許してくれない。仕方なく目をぎゅっとつぶるも、ただちに注意されてしまう。 「だーめ、ちゃんと見てください」 「あぁっ」  しこりのある一点を突かれて全身に鳥肌が立った。刺激から逃げようとしても、抱きしめられる形で腕を回されてしまっては、手の打ちようがない。 「ああッ、あっ、ン……やっ、あぁっ」  玲央の体はすっかり雅に支配されていた。衝動のままに滅茶苦茶に体内を掻き回され、もうおかしくなりそうだというのに、 「本当にやらしい顔。ここもこんなに悦んで……すごくエッチですよ、玲央さん」  耳元でぬちっと濡れた音がして低く囁かれる。淫らな己の姿を見られている――その事実が心までも犯していく。 「やっ、見んなっ、みや、び……! あっ、やだ、って」 「……可愛い。もっと苛めていいですか?」 「ぅあっ!? ンあっ、うあぁあっ!」  容赦のない責め立てに頭が真っ白になった途端、再び自身から熱が噴き出した。  なおも続く突き上げのたび、押し出されるように白濁は溢れ出て、長い絶頂感に気を狂わされそうになる。 「あッ、ああっ、ン、みや、雅ってばっ!」  すすり泣きながらひたすらに喘ぎ、名を呼ぶも、雅はイタズラっぽく笑うだけだ。 「玲央さんも溜まってたんですか? この際もっと出しておきます?」  力をなくした自身に手を伸ばされ、強弱をつけて強引に扱かれれば、本人の意思とは関係なく勃ちあがってしまう。  どこまでも貪欲に感じすぎてしまう体に、神経が焼き切れてしまいそうだった。 「ひあッ! も、ほんとむりっ……むりだからぁ!」 「っ……俺もそろそろなんで、またイキ顔見せてください。ほら、可愛くびゅーって出しちゃって」  耳朶を甘く食まれながら、いっそう荒々しく揺さぶられる。  頭は朦朧としていて何も考えられない。体がばらばらになってしまうのではないかという錯覚に陥りつつ、ただ泣き叫ぶように声をあげた。 「っあ! あっあ、みやびっ、みやび……っ」 「玲央さん――」  一気に限界まで追い立てられて、襲ってくる快感の波に射精感が膨れあがってくる。そして、愛しい彼のものをきつく締めつけながら、 「やああぁあぁっ!」  激しい声を響かせて強烈な絶頂を迎える。  あとを追うように、体内の屹立が最奥へと叩き込まれた。 「ぁ、なか……雅、の」  熱い欲望が注がれるのを感じつつ、「気持ちいい」と熱に浮かされるように呟く。それが相手を欲情させる行為だと知らずに。 「成長したとか言ったっけか? 自制だけはマジで覚えねーんだなあ?」  浴室で散々――せがまれるままに何ラウンドも――交わったあと、ベッドに横になった玲央は、咎めるような視線を雅に投げかけた。 「久しぶりだったもので……本当にすみません。明日というか、今日も舞台稽古あるのに」  ずいぶんと反省しているようで、雅は床に正座して身を縮こませている。大きな体が今だけは小さく見えた。  確かに寝る時間は大してないし、体のあちこちが辛くて仕方ないのだが、久々の行為はそう悪いものではなかった。息を吐いてから本音を伝えることにする。 「ったく、別にいいよ。なんか吹っ切れたし、いい感じに肩の力抜けたっつーか。昨日より、今日の方がうまくやれそうだって自信ある」 「本当ですか?」 「嘘ついてどうすんだよ」 「だって、玲央さん格好つけだから」 「うっせ! ほら、寝るからさっさと来い!」  言って、ごろりと壁際に寝返りを打つ。  ややあって、ベッドが沈む感触とともに温かな体温を背に感じた。 「俺、ちゃんと玲央さんのこと見てますから。眩しい演技、きっと見せてくださいね」  そんなの当たり前だ――胸の中で返して眠りについたのだった。     ◇  ついに舞台公演を迎えた日。 『おい、聞いたかユースケ!? って、なんだよその顔は! 人がせっかくいいニュースを持ってきたのにさ~!』  玲央は、心が興奮に満ち溢れるのを感じていた。  滾る思いを演技という表現に昇華させていく。キャストやスタッフ、舞台を作りあげる全員の熱意が直に伝わってきていた。  迷いも何もない。経験不足で技術もないのは十分承知しているし、だからこそ全身全霊でありのままに演じようと思った。  観客の目を釘付けにしたい。心を打ちたい。記憶に残ってほしい。――無我夢中になって役を演じ、あっという間に初回公演はカーテンコールを迎えるのだった。 (なんだ、映像志望だったけど舞台もいいじゃん……)  ここに来て、ようやく観客の顔が見られた。  皆が席を立って拍手を送り、拍手喝采を浴びるのが想像以上にずっと気持ちよくて、思わず涙が零れそうになった。  そんな中、誰よりも大切な人を見つける。“彼”は女性客が多い中で浮いている存在だった。いや、そうでなくたって、すぐ見つけられたに違いない。 (お前の存在、どんだけデカいんだよ)  彼がいなければ、こうして俳優として舞台に立つこともなかっただろう。 情けない自分のことだ、とっくの前に諦めていたに違いない。この光景が見られたのは、間違いなく彼が傍にいてくれたからだ。  不安で挫けそうになったり、辛くて逃げ出しそうになったりと、消極的な感情に度々悩まされるものの、あの優しい笑顔を見ればいつの間にか吹き飛んでしまう。  職業柄、これから先のことなんてわからない。だが、何度壁にぶつかったとしても、その存在が何度だって自分を奮い立たせてくれるはずだ。 (決めたことは絶対やり通す。駆け上がってやっから見てやがれよ、雅!)  玲央は心の中で熱く誓ったのだった。

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