116 / 142

おまけSS 酔っ払いにほだされて…

 その夜、大樹は誠のことを背負いながら思った。本当に世話の焼けるバカ犬だと。  自宅に連れ帰ってくるなり、適当にベッドの上に転がす。誠は赤ら顔でうつらうつらとしていた。  今日は同期の雅も交えて居酒屋で夕食をともにし、飲酒をしたのだが、己の限界を知らない誠はすっかり酔いつぶれてしまったようだ。 (ひとまず、水でも飲ませておくか)  寝る前に水分補給をさせた方がいいだろうと思い立つ。  ところが、背後からずしりと重いものが覆い被さってきた。抵抗するすべもなく、思わず体勢を崩してしまう。 「だいきぃ~」  考えるまでもないが、誠が抱きついていた。 「あのなあ」 「ちゅー、しよ?」  甘ったれた声で言ったかと思えば、誠は返事も待たずに口づけてくる。何度かこちらの唇を啄むと、とろんとした瞳で微笑んだ。 「へへ~っ」 「お前、完全に酔って……」  言い終える前に再び唇が重ねられる。ちゅっと音を立てながら何度も吸いつかれれば、次第に煽られている気分になり、 「………………」  そのうち、相手の唇を貪るように自ら口づけていた。  口元が開いた頃合いを見計らって舌先を差し込み、歯列を割り、上顎をくすぐって――ふと違和感に気づく。 (……誠?)  どうにも反応が鈍いと思って、唇を離す。  それと同時に、どさりと誠が体重を預けてきた。 「おい、まさか」  静かに寝息が聞こえる。そんな馬鹿なとは思うのだが、彼はすっかり眠りこけていた。 (このバカ犬!)  なんとも形容しがたい熱をどう鎮めたらいいのか。一人で治めろとでも言うのだろうか。  幸せそうに眠る愛くるしい顔が、今は腹立たしくて仕方がなかった。     ◇  翌日。朝食を用意していると、誠が怪訝な顔で話しかけてきた。 「お前、なんでずっと眉間に皺寄せてんだよ?」 「誰かさんのせいでな」 「え、俺なんかした!?」 「昨夜のこと覚えてないのか?」  うーん、と誠は考えて、 「あれっ? つーか、俺、どうやって帰ってきたんだっけ?」 「っ……」  完全に頭にきて、朝食の乗ったプレートをドンッとテーブルに置く。誠は「ひっ」と小さく呻いた。 「だ、大樹~? どおしたのかなあ~っ?」 「……どうお仕置きしたものか考えてたところだ」  低く言って睨みつける。昨夜の欲求不満も含め、今日はもう手加減をしてやるつもりはなかった。

ともだちにシェアしよう!