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おまけSS 花、愛の言葉(2)
五月の第二日曜日である母の日。
「おい、挨拶くらいしろ。泥棒かと思うだろうが」
自室から出て、大樹は母親のように誠のことを叱りつける。こっそりと家に帰ってきては、誠が台所でガサゴソと物音を立てていたので何事かと思ったのだ。
「あ、大樹……」
誠は大きく目を見開いて、きまりが悪そうな顔をする。
彼の手元には、並々と水が注がれたグラス、そして数本のカーネーションがあった。
「どうしたんだ、それ」
「あー、バイト先で配ってたんだけど余っちゃってさ、何本か貰ってきたんだよね。せっかくだから大樹、生けるのやってくんね?」
あはは、と誠が調子よく笑う。
こういったところは、本当に昔から変わらない。そっと人の心に寄り添うことのできる彼だからこそ、自分は好きになったのだ――改めてそう感じた。
「……とりあえず水入れすぎだろ。すぐ腐っちまうぞ」
「え、マジ!?」
「その半分くらいでいい。水切りしてやるから少し待ってろ」
いつものようにやり取りをする。この歳になってどうもこうもないが、相手の思いやりをわざわざ無下にすることもあるまい。
(カーネーション、か)
水を張ったボウルに茎を入れて、ハサミで斜めに切っていく。
父子家庭の大樹にとって、母の日といえば墓参りだった。死別した母を想い、カーネーションを供えていたことを思い出す。
「綺麗だよなあ」
「そうだな。状態もいいし、しばらく綺麗に咲いてくれそうだ」
相槌を打ちつつ、茎の切っ先が空気に触れぬよう水に浸けておく。しばらく置いたところでグラスに花を生けた。
仕上がったそれを見て、誠は「おおっ」と声をあげる。
「ちょうだいちょうだい! 部屋に飾ってくる!」
その無邪気な笑顔を見て、また一つ思い出したことがあった。あれは父親に教わったことだったろうか。
「母の日といえばカーネーションだけど、花言葉は知ってるか?」
「へ? 知るワケねーじゃん、《母への感謝》とか?」
「それもあるが」
カーネーションが生けられたグラスを手渡して、
「――《無垢で深い愛》」
「………………」
誠が固まったかと思えば、頬がじわじわと朱に染まっていく。
そして、やや間を空けてから、
「っぶねー、花瓶落としそうになった」
「あのな」
こちらがどんなにロマンのある言葉を述べても、相手がこうではムードなんてあったものではない。
やれやれだと思っていたら、誠がカーネーションを一本差し出してきた。
「だ、だったら……どーぞ。お前の部屋にも飾っとけよ」
「……どうも」
「おう」
短く言葉を交わして、カーネーションを受け取る。
それから誠は、すぐさま自分の部屋に入っていった。まるで逃げるかのように。
(アイツなりに意識はしてくれてるんだよな)
大樹は目を細め、貰ったカーネーションに想いを巡らせるのだった。
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