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おまけSS 温泉旅行、さらにその後
温泉旅行の夜。客室に備え付けられたツインベッドを目にして、
「ベッド、一つでよかったんじゃね?」誠がぼそっと言う。
やれやれと大樹は深いため息をついた。
「バカ、男二人でダブルとか予約できるか」
「あ、そっか」
どうやら、言われてやっと気づいたらしい。
(毎度のことだが、コイツの頭の中は一体どうなっているのだろうか)
ベッドに入りながら、付き合いたての頃を思い出す。
あのときもフットワークが軽すぎて驚かされた。というより、ずっと悩んでいた自分が馬鹿らしく感じられたくらいだ。
まあ、同性間の恋愛に偏見がないのはいいことだが――考えているうちに、誠が無言でこちらのベッドに上がり込んできた。
「誠?」
「眠いからもう寝る……」
「あっちのベッドじゃなくていいのか?」
「大樹と一緒がいい」
言って、電池が切れたみたいに誠は眠りについた。
「本当にガキだな」
苦笑しつつ布団を掛けてやる。頭を撫でると、誠の頬がだらしなく緩んだ。
(ふざけた顔しやがって)
それでも、どうしようもなく愛おしくて、
「おやすみ、誠」
そっと前髪を上げて、額に口づけを落とす。
「ん、ぅ……」
くすぐったそうに誠が身をよじった。かと思えば、口から色気のない寝言が聞こえて、大樹は再び小さく笑うのだった。
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