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おまけSS 休息デートな日

 時刻は深夜一時半。バーテンダーのアルバイトを終えた玲央は、ふらふらとした足取りで家路を急いだ。 (頭痛がする……)  頭の芯がズキズキと痛み、眼鏡を掛けているはずなのに焦点が定まらない。ついでに、なんだか寒気もしてきた。  それでも心は軽く、久々に取れた休日である明日のことを思えば、活力が湧いてくる。しかも、雅と一日デートする予定だ。これが楽しみでないわけがない。 (早く休んで、うんと明日は楽しみてーな)  重い体に鞭を打って、なんとか自宅へと辿り着く。玄関で靴を脱いでいると、「おかえりなさい」と雅が出迎えてくれた。 「ぁ……」  その姿にほっとしたのも束の間、返事をする前に玲央の体がぐらりと傾く。  もはや己の体を支える余力もなかった。あっと思ったときには床に倒れ込んでいて、雅の焦る声を耳にしながら、意識がどんどん遠のくのを感じたのだった。     ◇  目覚めはいつもの天井だった。昨夜からの記憶が飛んでいるが、寝室のベッドに寝かされていて、着替えもいつの間にかなされていた。 「あ、起きたんですね。おはようございます」  タイミングよく雅がやってくる。また情けないところを見せてしまったと思いつつ、気怠い体を起こした。 「今、何時……?」 「えっと、お昼の十一時ですね」  返事を聞いて一瞬固まる。それからワンテンポ遅れて、 「悪ィ、寝過ごした!」  慌てて跳び起きるも、雅がすぐに押し止めてきた。 「今日は家でゆっくりしましょう?」 「いや、すぐ支度するしっ」 「……玲央さん」  雅の顔が近づいてきて反射的に目をつぶる。こつんと額同士が合わさり、二人の体温の違いを感じた。 「ちょっと熱、ありますよね?」 「………………」 「無理しないでください。こんな状態の玲央さんと出かけても、きっとイマイチ楽しめないです」  雅の言うとおりだ。確かに、自分でも体調の悪さには気づいている。  しかし、今日は久々のデートの予定で、行きたい場所も事前に二人で話していたのだ。  一緒に出かけるのを楽しみにしていたのに、と心が痛む。相手もきっとそうであろうと考えればなおさらだ。 「ごめん」 「俺は玲央さんと一緒にいられれば、何だっていいですよ」  雅は微笑んで返してくる。 「玲央さんは頑張りすぎだな、って思うことが多々あります。本当はもっと自分を大事にしてほしいし、金銭面だって俺が……とも思うんですけど、言ったってどうにもならないって知ってます。だから、強くは言いません」  でも、と言葉を区切って、 「俺には、いつだってあなたを支える覚悟があるんだってこと。それだけは忘れないでください」 「雅……」  雅の言葉に胸が震える。また心がそっと解かれるのを感じた。  こういった場面でどうこうできるほど、自分はうまくできていない。それでも、精一杯の勇気を振り絞って、意思表示を試みようと思った。 「今日は大人しく休むことにするから――う、腕枕しろ……そんで、話がしたい。久々にゆっくり、どんなことでもいいから……」  やっとのことで伝えるとベッドが静かに沈んだ。雅が身を寄せてくるなり、玲央は不器用ながらに甘えるのだった。

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