123 / 142
おまけSS 悪夢と癒しの抱き枕
ふと夜中に目が覚めて、大樹は静かにベッドから上体を起こした。
亡くなった母親が夢に出てきたのだ。もう何年も前の話で、いい歳して特に思うこともないのだが……、
(夢見があまりよくないな)
はあ、と息を吐きつつ視線を横に向ける。
隣では誠がすうすうと寝息を立てていて、その存在を確認するだけで安堵感を覚えた。ベッドに再び横になると、そっと華奢な体を抱きしめる。
「ん……んん~?」
途端、眠たげな声がした。
「だいきぃ?」
もぞもぞと身をよじらせて、誠はこちら側に寝返りを打ってくる。微かに瞼が開いて目と目が合った。
「悪い。起こすつもりはなかったんだが」
「んん? べつにいーけど……どーした? よくない夢でも見た?」
「え……」
「なんか、そんな気が……でもごめん、ねっみい……」
誠が舌足らずに謝る。いや、何を謝ることがあるのだろうか。
大樹が困惑していたら、誠は胸元に顔をうずめてきて、
「だきまくらにして、いーから」
その言葉を最後に眠り始めたのだった。
(抱き枕ってオイ……)
彼らしい発想に苦笑してしまう。とはいえ、気遣ってくれてのことなのだろう。
(ああ、バカで本当に愛おしい)
布団を掛けなおし、甘えるように彼の背へ腕を回す。
それから、ゆっくりと瞼を下ろした。あたたかな温もりに心が満たされていくのを感じながら。
ともだちにシェアしよう!