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おまけSS 悪夢と癒しの抱き枕

 ふと夜中に目が覚めて、大樹は静かにベッドから上体を起こした。  亡くなった母親が夢に出てきたのだ。もう何年も前の話で、いい歳して特に思うこともないのだが……、 (夢見があまりよくないな)  はあ、と息を吐きつつ視線を横に向ける。  隣では誠がすうすうと寝息を立てていて、その存在を確認するだけで安堵感を覚えた。ベッドに再び横になると、そっと華奢な体を抱きしめる。 「ん……んん~?」  途端、眠たげな声がした。 「だいきぃ?」  もぞもぞと身をよじらせて、誠はこちら側に寝返りを打ってくる。微かに瞼が開いて目と目が合った。 「悪い。起こすつもりはなかったんだが」 「んん? べつにいーけど……どーした? よくない夢でも見た?」 「え……」 「なんか、そんな気が……でもごめん、ねっみい……」  誠が舌足らずに謝る。いや、何を謝ることがあるのだろうか。  大樹が困惑していたら、誠は胸元に顔をうずめてきて、 「だきまくらにして、いーから」  その言葉を最後に眠り始めたのだった。 (抱き枕ってオイ……)  彼らしい発想に苦笑してしまう。とはいえ、気遣ってくれてのことなのだろう。 (ああ、バカで本当に愛おしい)  布団を掛けなおし、甘えるように彼の背へ腕を回す。  それから、ゆっくりと瞼を下ろした。あたたかな温もりに心が満たされていくのを感じながら。

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