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おまけSS 胸キュンシチュ1・2・3

 とある夕食後。誠が皿洗いをしていると、 「濡れるだろ」  背後から声をかけられ、大樹が器用な手つきで服の袖を捲ってきた。見覚えのある仕草に、誠はすぐさま反応する。 「あっ、それって《袖クル》だよな! 女子がときめくシチュエーションだって、テレビでやってた!」 「そうだな。お前の反応的にロマンの欠片もないが」 「だってさ、これって単なる……」  母親の行動じゃん、と言いかけて慌てて口を閉ざした。けれどもすでに遅く、大樹は不機嫌顔になって睨んでくるのだった。 「あ……洗い物おーわりっと」  気づかぬふりをして皿を洗い終える。素早くタオルで手を拭いて、そそくさと立ち去ろうとするのだが、あの――母親呼ばわりを嫌悪する――大樹が、許してくれるはずがなかった。  すかさず追ってきた大樹は、回り込むようにして壁に腕をつき、退路を断ってくる。 「じゃあ、これならどうだ?」  俗にいう《壁ドン》の体勢だ。動揺して固まっていると、すっと顔を近づけられた。 「か、かか顔近くね!?」 「こういうものだろうが」  大樹は涼しい顔で、クイッと誠の顎を軽く持ち上げる。そのまま柔らかな唇が押し当てられた。 「んっ、ぅ……」  強引に迫られてキスされるなんて、まるでフィクションの世界だ。素でこのようなことをしてしまう目の前の男が信じられなかった。だというのに、 (……こんなので、ドキドキしちゃう俺もどうかしてる)  急激に心拍数が上昇するのを感じた。息苦しさに薄く口を開けば、隙間から大樹の舌が侵入してくる。  口内を荒っぽく掻き回され、差し出すまでもなく舌先にきつく吸いつかれ、堪らず頭がくらくらとする。 「ん、んぅっ……ま、待って」  息も絶え絶えに待ったをかけた。  口づけから解放されると、至近距離で見つめられて、 「どうした? しおらしくなったな」  意地悪に大樹が口の端だけで笑う。その顔はどこか熱っぽく、誠の心臓がドクンッと飛び跳ねた。 「あの」  せっかく制止したというのに、顔を背けることもできなければ、返す言葉も出てこない。そうこうしている間に、大樹は再び顎を掬ってくる。 「女子がときめくシチュエーション……だったか? こんなお前が見られるなら、たまにはいいかもな」 「お……俺、女子じゃねーもん」 「そこ、ツッこむところか? わざとムードぶっ壊してるだろ?」 「だって、なんか恥ずかしすぎて……正直、すごく困ってる」 「……バカ犬」  大樹が囁きながら眼前まで迫ってくる。  鼻同士を擦り合わされたと思ったら、続けて慈しむように微笑まれた。 「て、てんこ盛りかよお~」 「なにが」 「女子がときめくシチュエーション!」  やたらと調子づいた大樹に敵うはずもない。  誠は観念して、甘ったるいムードに流されるのだった。

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