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おまけSS 過去のラブレター?
誠がダイニングテーブルで課題に勤しんでいると、大樹は顔をしかめながら向かいの席に座ってきた。そして、手元のレジュメを覗き込むなり一言、
「相変わらず汚い字だな」
「失礼だなあ、お前~」
以前から何度もツッこまれているので、今さら気にするほどのことでもない。ミミズの這ったような字しか書けないのは事実だし、自分でも汚い字だと常々感じている。
しかし、次の言葉は聞き捨てならなかった。
「お前の書く字って、昔と変わらないんじゃないか?」
「はあ!? さすがに少しはマシになったっての!」
「そうか? 俺にはどうも……」
「変わったよ! 変わったもんね!」
噛みつくように言うと、大樹は不満顔で「待ってろ」と席を立った。そして自室に入るなり、すぐに戻ってくる。
「ほら、見てみろ。大して変わってないから」
「え、なにコレ」
大樹が持ちだしてきたのは、古めかしい四つ折りの紙きれだった。開いて内容を確認すれば、ざあっと誠の顔が青ざめる。
『だいきくんへ
もう一年生もおわりだね。わからないところとか、いろいろおしえてくれて、とてもたすかりました。
だいきくんといっしょにすごせて、すごくたのしかったよ。
らい年は、ぜ~ったいに、いっしょのクラスがいいなあ。そしたら、もっとおはなしできるよね。
それじゃあ、これからもなかよくしてほしいな。またあそぼうね。』
(お、思い出した!)
間違いなく、誠が大樹に送った手紙だ。友達になったばかりの頃――手紙にあるとおり小学一年生の頃――だから、もう十年以上も前になるだろうか。
「なんで、こんなの取っといてんだよ!?」
「純粋に嬉しかったから」
「は!? つーか俺、こんな恥ずかしいコト書いてたの!?」
「ああ、今思えばラブレターのようにも思えるか。読み手のことを考えている分、こっちの方が丁寧な字だったりしてな」
いやらしく大樹がニヤリと笑う。
今となっては、字の汚さが云々といったことは些細な問題でしかない。幼少期に書いたものとはいえ、手紙の内容が恥ずかしくて甘酸っぱい気持ちになった。
「……捨てていい?」
「いや、俺のなんだが。というか、好きなヤツから貰ったものを、易々と捨てられるワケないだろ」
大樹は手紙を奪い取っていく。さも大切そうに、丁寧な手つきで折りたたむものだから、なおさら胸に来るものがあった。
「あ……あー、そっか! さてはお前さ、こーゆーの見ては一人でニヤついてんだろ? 俺としては、ちょっとどうかと思うけどなあ~?」
羞恥心を誤魔化そうと、そんなことを言ってみる。
どうやら図星だったようで、大樹はピクリとして固まった。ところが一瞬のうちに、今度は“無”を思わせる表情で見つめてくる。
「そうだな。どうせ俺は根暗でネガティブだし、いろいろと拗らせてるよ」
「だ、大樹?」
妙に刺激してしまったことに気づくも、時すでに遅し。大樹の目つきが険しいものになって、突き刺さるような視線を浴びせられる。
「で、何か問題でも?」
「ひっ」
ひどく恐ろしいものを感じて思わず声をあげた。
ああ、今夜はきっと眠れないのだろうな――誠は静かに悟るのだった。
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