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おまけSS 恋人と特別なプレゼント

 束の間のデートを楽しんだ帰り道。周囲に人の気配がないのを確認し、雅はそっと玲央と手を繋いだ。  今日はジュエリーショップに行って、約束していたペアリングをオーダーしてきたのだが――ずっと気になっていたことを口にする。 「やっぱり、一緒に選ぶの嫌でしたか?」 「えっ、なんで?」 「……玲央さん、お店でずっと俯いてたから」  終始言葉少なげに、難しい顔をしていた玲央のことが気がかりだった。  店員は快く対応してくれたものの、同性というのはこういった場面でどうしても難しいところがある。やはり抵抗があったのだろうか、無理を通してしまったのだろうか――一度考えると、後ろ向きな思考が頭をもたげてきた。 「ごめんなさい。恥ずかしかった……ですかね?」 「は!? バッ、違ぇーし!」  玲央が怒ったように声を荒らげる。 「他人にどう思われようが関係ねーし、つか、別に恥ずかしい関係だと思ってねーし! ただ……」 「ただ?」 「その、俺自身の問題ってゆーか。う、嬉しくて、だらしねー顔しそうになって、つい柄にもないこと口走りそうになって……ここっ、こんなこと言わせんなクソったれ!」 「あいたっ!?」  後頭部を叩かれて体勢を崩した。照れ隠しに手が出てしまう癖は、いつまで経っても直らないらしい。 (だけど、どこまでも可愛い人でまた好きになる……)  どれだけ相手のことを好きになったら気が済むのだろうか。ムズムズとした甘ったるい気持ちを感じていたら、玲央が申し訳なさそうにして見上げてきた。 「せっかくのイベントごとなのに、勘違いさせたなら悪かった。けど、俺だって楽しみにしてるのは確かだから」 「玲央さん……」  ペアリングは、内側に二人の誕生石――エメラルドとペリドット――を埋め込んだうえで、イニシャルを刻印してもらうことになっている。後日、自宅に発送されるとのことで、実物を見るのが待ち遠しかった。 「玲央さんの指輪、俺が着けさせてくださいね」 「ったりめーだ……するんだろ?」 「え?」 「ぷ、プロポーズ、みたいなの」 「………………」  思わず玲央の顔を覗き込む。自分で口にしておいて、耳まで真っ赤になっているのだから困りものだ。 「つ、つーか、お前のも俺様が着けてやるし! だから、覚悟しとけってンだ!」  しかも、どうやら居たたまれなくなったらしい。ぶっきらぼうに付け足すと、玲央はぷいっとそっぽを向く。  あまりの愛おしさに、雅はクスッと笑ってしまった。 「わかりました。それで、式はいつにしますか?」 「はあ!? おまっ……いくらなんでも気が早すぎだろっ! そーゆーのは、さておいてって言っただろーが!」 「あははっ! でも、いつかきっと考えてくれますよね?」 「っ、ばか……」  どうしようもなく幸せを感じて、繋いだ手を軽く揺らしながら自宅へと帰った。 「ガキかよ」といつものように玲央が言ってきたが、その表情はどこか照れくさそうな、はにかんだ笑顔だった。

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