127 / 142
おまけSS 幼馴染は甘やかし上手
ダイニングでテレビをぼんやり見ながら、珍しく誠は物思いにふけっていた。
(甘えたいか、甘えられたいか……つってもなあ)
恋人には《甘えたい派》か《甘えられたい派》か。大学の同期たちが、盛り上がって話していた内容を思い返す。
その場は適当に流していたものの、どうにも気になっていた。自分は間違いなく前者であろう。しかし、恋人に対してというよりは、まるで母親に対するものではないのかと考えてしまうのだ。
(恋人として甘えるってどうすんだろ。アイツ、母親扱いされるの嫌ってるし、絶対そっちのが嬉しいと思うんだけど)
頭を悩ませていたら、ちょうど自室から大樹が出てきた。思わぬ当人の登場にピクリと反応してしまう。
「なに?」
「や、なんでもないけど」
首を振って否定すると、大樹は怪訝な表情を浮かべながら台所に向かい、冷蔵庫の中身を物色した。
それを確認しつつ、
「あのさっ……ぎゅってしてもいーい?」
近づいていって、おずおずと大樹のシャツの裾を掴む。
いろいろと考えを練っていたつもりだったが、思ったよりも幼稚な言い方になってしまった。
しかも、いくらなんでも唐突すぎるだろう。相手も何も言わずに固まってしまっている。
「ご、ごめん! いきなりおかしいよな! なに言ってんだろ、俺!」
「いや、お前がそんなこと言い出すとは思わなくて……驚いただけだ」
言うと、彼は振り返って微笑を浮かべた。
「いいよ、ほら」
「………………」
そっと腕を差し伸べられて、誘われるように身を寄せる。
友人関係の延長で付き合い始めたせいで、ムードの変化に戸惑うことが多々あるのだが、今は純粋に恋人らしく触れ合いたいと感じた。
(やば……意識して甘えるのって、めちゃくちゃ恥ずかしい)
背に腕を回せば、同じように抱きしめ返される。トクントクンという鼓動を耳にしながらじっとしていたら、小さく大樹が笑った。
「これだけでいいのか?」
「えっ? え、えーっと……キスもしたい、かも」
こちらの言葉に大樹は抱きしめる腕をやんわりと解いて、吐息がかかる距離で見つめてくる。視線を交えてから、そっと誠は瞳を閉じた。
「ん……」
唇が重ねられて、甘く食まれる。
それから何度か重ねるだけのキスをしたあと、大樹は唇を軽く浮かせて囁いてきた。
「他には?」
その声色があまりにも優しいものだから、鼓動がまた一段と速くなってしまう。
彼のこういった一面は、自分しか知らないに違いない。この優しさが明確に周囲に向けられれば、彼も人の輪にもっと入っていけるのだろう。
(でも、さすがにここまで甘やかしてくれるのは、俺だけでいい……かな)
まったく甘やかし上手で困ってしまう。ふわふわとした感情を抱きながら、続きを求める誠なのだった。
ともだちにシェアしよう!