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おまけSS あの頃の玲央さん

「玲央さん、ただいまです」  雅が明るい笑顔とともに、リビングに顔を覗かせる。  ソファーに寝転がっていた玲央が「おかえり」と返すと、雅は首を傾げた。 「あれっ? なんか見てる」 「ああ、コレ? 中坊ンときの卒業アルバムだよ」  押し入れの整理をしていたら出てきたものだった。つい懐かしくなって、落ち着いたときにでも見返そうと表に出しておいたのだ。  別にこれといって大した思い出はないし、当時の自分を思えば恥ずかしいものがあるのだが――考えたところでハッとする。 「へー、へええーっ!」  気がつけば、雅が傍に寄ってきて目を輝かせていた。ここから導き出されることは一つしかない。 「見たいです!」 「見せねーよ」  アルバムを閉じて即答すると、雅はしゅんと眉尻を下げる。  大の男がすることではないにせよ、こういったところが雅らしい。この男のことだから、半分くらいは計算でやっている可能性もあるが。 (まさかな……)  玲央は押しに弱いところがあり、雅も当然それを知っている。 「玲央さん……駄目?」  さらにこの瞳だ。ダメ押しだとでも言うように見つめられれば、もうどうしようもない。 「し、仕方ねえな。特別だかんな!」  ソファーから身を起こし、ポンポンと隣を叩いては雅を招く。雅はパアッと喜びを顔に咲かせた。 「わあっ! ありがとうございます!」 「……テメェ、わかっててやってンだろ?」 「えへへ、ちょびっとだけ」 「んにゃろ~」  雅が座ったところで、アルバムのページを最初からめくる。恥ずかしいことこの上ないが、一ページ目は卒業記念に撮影した個人写真だった。 「あっ、玲央さん幼い! 可愛い~!」 「……そう言われてもな」  どう反応したものか。黙って次のページに指をかける玲央を、そっと雅が止めてくる。  手と手が重なって、不覚にもドキリとした。 「玲央さん、待って待って。ちゃんと見せて?」 「あのなあ」 「だって、俺の知らない玲央さんのこと知りたいし」  言って、雅はまじまじと写真を見つめる。  中学時代の玲央はまだ黒髪だったし、ピアスの穴も開けてなかった。今の風貌になったのは高校からだ。  すべては、不甲斐ない自分のカモフラージュにすぎない。当時の自分に対する感情といえばマイナスなものしかないし、正直勘弁してほしい。 「………………」 「この頃と比べたら変わったけれど、こうして見ると面影ありますよね」 「……いやまあ、人間そんな変われるモンじゃねーし」  少しだけ、いつもよりぶっきらぼうな言い方になってしまった。些細な変化にも気づいたらしく、雅は困ったように笑みを浮かべた。 「玲央さん。俺が好きになったのは、そんな玲央さんなんですよ?」 「は……なに言って……」 「玲央さんは恥ずかしかったり、嫌だったりするかもしれないけど。俺はね、そういったところも含めて好き。あなたの全部が好きなんです」  それを聞いてハッとする。 『人前では弱みを見せないように全部押し殺して、意地張って、格好つけて。男ってそういうものじゃないですか』  そうだった、と以前言われた言葉を思い返した。ありのままの姿を受け入れたうえで、「格好いい」と言ってくれる雅だからこそ、玲央も心を開いたのだ。 (ちくしょ……カッコいいのはテメェだっての)  甘い感情が込み上げてきて、そっぽを向く。 「もういいから、次いけよ。時間食ってしょうがねーだろ」 「はは、それもそうですね」  雅は微笑みを浮かべてから、アルバムのページをめくった。  一年生の入学式、二年生の校外学習……と、学年ごとに写真が並ぶ。玲央の姿を見つければ、そのたびに雅の指が止まった。 「あっ、この玲央さんも可愛い。ちゃんとカメラ見ればいいのに……ふふ、可愛いなあ」 「っ、やっぱ駄目だ」  ムズムズとした気持ちを感じて、待ったをかける。 「ええっ、今度はなんですか?」 「いや……なんつーか」  先ほどとはまた違った意味で、雅の言葉が引っかかった。  自分のことながらに面倒だとは思うが、気になってしまったものは仕方ない。戸惑いながらも言葉を続ける。 「そう思ってくれるのはいいけどよっ。あんま昔の自分に向かって言われると……なんかヤダ」 「あー、嫉妬しちゃう?」 「……ちょっと、複雑」  と、素直に口にすれば、 「じゃあ……今言った以上に、玲央さんのこと可愛がればいい?」  雅が低く囁いてくる。こうもはっきり誘われては、こちらも意識せずにいられない。 「お前な……」 「あ、もう期待してる顔だ」 「うっせーよ」  吐き捨てるように言いながら、雅の胸倉を掴んで引き寄せた。  玲央の体に押されてアルバムが床へと落ちる。雅が拾おうとするのだけれど、玲央はそれを良しとしなかった。 「玲央さん、アルバム落ちた」 「今はこっちだろ」 「もう、玲央さんは《俺様》だなあ」 「《エセ草食系》に言われたくねーよ」  短いやり取りのあとキスを交わす。二人して思わず笑みがこぼれた。

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