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おまけSS メイド服の行方

 その夜、大樹が自室でくつろいでいると事件は起きた。 「大樹……今、ちょっといい?」 「ああ。どうした?」  控えめな誠の様子に何事かと思う。  何かやらかしでもしたのだろうか――考えつつベッドから体を起こすなり、大樹は己の目を疑った。部屋に入ってきた誠が、信じられない姿をしていたのだ。 「あの、これさ。どう?」  黒いワンピース、フリルのついた白エプロン、カチューシャ、ニーハイソックスといった小物――どこからどう見てもメイド服だ。  短いエプロンドレスを揺らしながら、誠が近づいてくる。 「どうって。そもそも、その服どうしたんだ?」  動揺を隠すように、大樹は問いかけた。  あまりにも不意打ちすぎて思考が追い付かない。否応なしにも、細い脚に目線が引き付けられ、胸がドキドキとしてしまう。 「部室の整理してたら出てきたんだよ。ほら、覚えてない? 獅々戸さんが文化祭で着てたヤツ」 「そういえば……いや、だからってどうして」 「獅々戸さんも岡嶋さんも、二人していらないって言うからさ。捨てるのも勿体ないし、他に希望者いなかったしで」  それに、と言葉を一度区切って、 「大樹が、喜んでくれるかなって」 「誠……」  頭を鈍器で叩かれた気分だった。まさかそんなつもりで着替えてくれたとは、考えが至らなかった。  しかし、なおも誠は追い打ちを仕掛けてくる。 「ええっと、こんなのも用意してみたんだけど」  と、あろうことか、裾を両手でたくし上げたのだ。 「!?」  今度こそ動揺が隠せない。露わになったのは、レースがふんだんにあしらわれた女性ものの下着だった。  少ない布地からリボンが伸びて、左右で結ばれている――なんて卑猥なデザインだろう。  誠のものは窮屈そうに布地の中に収まっていて、大樹は思わず生唾を呑み込んだ。 「大樹? その……あ、あんま好きじゃない?」  誠が不安げに問いかけてくる。  顔は耳まで真っ赤で、瞳もどことなく潤んでいた。頭の中は羞恥でいっぱいだろうに、なおもこちらの様子をうかがってくる姿といったら、もう言葉にならない。 (本当にバカ犬だな)  いたいけな彼らしい行動に胸が熱くなる。大樹は笑って、誠の手を引き寄せた。 「んなワケあるか。好きに決まってる」 「っ! ……んぅ、ん」  体勢を崩した誠を抱きしめて、流れるような動作で唇を奪う。柔らかな唇を貪りながら、そのままベッドに押し倒した。  さすがに早急だったか――口づけを解いて瞳を開けると、誠は微笑みを浮かべていた。 「興奮してくれた?」 「頭がおかしくなりそうだ」 「へへ、嬉しい」  どこまでもアンバランスな――誠の表情はあどけないものだが、身につけているものといえば、あまりにも煽情的で破壊力がありすぎた。本当にこちらが困ってしまうほどに。 「………………」 「ん、ぁ……」  衝動に突き動かされるように、誠の脚を割って下着の縁をそっとなぞる。  際どいところから、はちきれんばかりに主張しているものへ。イタズラっぽく指先でちょんと押し上げてやれば、じれったそうな熱い吐息が零れ落ちた。 「あ、ン……大樹」 「脱がせるの勿体ないな」  小さく呟く。すると、誠が内緒話でもするかのように顔を寄せて、 「へーき。これ、後ろが紐になってるヤツだから……」  告げるなり元の体勢に戻って、恥ずかしそうにはにかむ。そんな愛らしい恋人に、大樹の理性はいよいよ飛んだのだった。

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