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第14話:

「目標は達成しちまってるんだよな」  大橋は、望月の家に向かう電車の中でサイトを見ながら呟いた。毎週土曜日に望月の家へ通うようになって一ヶ月ほど経過して、最初は遠い目標だと思われたソウのお気に入り登録百人という数字は、結局、大橋が関わってから二週間ほどで達成し、今では三百人に迫る勢いだ。その瞬間こそ、望月と喜びを分かち合ったが、二人はそのまま続けるか、やめるかどうかの話し合いをすることなく、今日も撮影の予定をいれていた。  自分の演出した動画に反応があることは嬉しいし、やりがいも感じている。望月からは今のところ今後の話については切り出されていない。むしろ話すことを避けているような気もする。それは、大橋も同じだ。あえて自分からその話には触れない。もちろん望月が続けたいなら、自分は引き続き協力するつもりでいる。  以前、大橋が大学生の頃に投稿していた動画は、一部のマイナーなファンに支えられていたが、ランキングに載るわけでもなく、話題になることもなく、メンバーが集まれなくなって自然消滅していった。ソウの動画は当時の自分の動画とは違い、人気も徐々に出てきている。動画投稿のやめどきは、人気の投稿者ほど引き際が難しいと言われている。  あと大橋には、もうひとつ引っかかっていることがあった。それは動画編集者であり、字幕で出演している大橋の存在に、閲覧者が気づき始めていることだ。 『この人の煽りは神』『黒丸に匹敵するタチ』といったように称賛してもらえるコメントは純粋にありがたい。しかしそうでないコメントの存在が大橋を悩ませていた。 『編集してる人はソウくんの恋人ですか?』 『このあと二人はセックスしてたりして』 『二人のセックス見たい』  正直、こういったコメントが来ることも、予想はしていた。これらのコメントを見て、望月がどう思ったのか、正直わからない。こまめにチェックしている望月のことだ。見ていないということは、まずないだろう。  もともと望月には、どんなコメントでもメッセージでも、返事は絶対にするなと言ってある。動画の最初に「いつもコメントやメッセージありがとうございます。すべて目を通しています。返事できなくてごめんなさい」と言わせることで完結させるようにしている。上司にセクハラまがいのことをさせてしまう望月のことだ。何か間違いがあったら、遅い。  そもそもアダルトカテゴリーの動画で妬まれやすいのは、仲がいい動画だ。セックスをしている動画で人気の投稿者もいるが、それは極めて稀な例で、二人だけの世界に浸っているイチャイチャ動画なんてわざわざ見たくないのだ。  もしソウとこの動画の編集者が恋人同士だとしたら、閲覧する側は白けるだろう。今まで、自慰行為をさせるという二人のプレイに過ぎない動画だと知ったら、きっと人気は急降下するだろう。ソウの動画の目指すところは、閲覧者があたかも、ソウにいやらしいことをさせている疑似体験をさせることで、編集者は、閲覧者の代弁者という位置でなくてはいけないと大橋は考えている。今、ソウの動画が注目されているのは、それが出来ているからだと分析している。  今、ソウは、人気投稿者になりつつある。だからこそ、自分たちの関係という動画と直接関係のない事に興味を持たれて、綻びが露呈する前に、人気絶頂のうちにやめるというのも引き際のひとつだと思う。  もちろん望月の意思が最優先だけれど、と心の中で前置きをしながら、スマホで動画のコメントを確認していると、ふとひとつのコメントに目が止まった。 『ソウさんへ 何度かメッセージ送っていますので、確認をお願いします』 「嘘だろ……」  それは人気絶頂の投稿者である"黒丸"からのコメントだった。

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