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第17話:
「え、それってもしかして、昔の……」
望月は、目をぱちぱちと瞬かせて大橋を見つめている。
「あちゃーそっか。どこで気づきました?」
「そりゃわかりますよ! だって俺が動画編集始めたの、あなたの動画見てからでしたから、この編集の仕方とかテクニックは、ハシさんを手本にしたものか、もしくは本人だって思ってましたよ! で、今、声聞いて間違いないって」
これは参ったなと、大橋は頭を抱える。まさか、自分のほうが身バレしてしまうとは思わなかった。ハシというのは、自分が大学生のときに動画の中で用いていたニックネームだった。
「いやー、感動です。ハシさん、マジですごかったんで」
そして望月もようやく事の顛末を理解したようで、表情を緩ませた。
「あの、僕も動画のことは知ってましたけど、そんなに有名だったんですか」
「ええ。あの動画、技術は凄かったんですが、ハシさん以外がイマイチでしたね。メンバーに恵まれていれば、きっと今頃、神動画実況者になってましたよ!」
褒められているのはわかるが、なんとも複雑な気分だ。その当時のメンバーは動画を投稿してみたいという自分に付き合ってくれた大学の友人で、動画で上を目指そうという仲間ではなかったからだ。もとから自分は編集という裏方作業のほうが向いていたのだろう。
「僕の動画も、ハシさん……がアドバイスくれて」
「それはそうかなって思いました。でもソウさんも魅力的だから、動画は伸びてるんだと思います。ソウさんみたいなかわいいネコは、世の中のタチが黙っちゃいませんよ!」
「あ、りがとうございます」
望月は褒められているというのに、困惑していた。それもそうだと思う。タチからみて、いいネコだと言われるのは、性的な対象だと断言されているわけなので、複雑なのだろう。
「で、あの答えたくないならいいんですけど、ハシさんとソウさんは、そういう関係なんですか?」
「そういうって……」
「ただの職場の同僚です」
望月よりも早く、大橋はぴしゃりと言い切った。ここは返答に迷うべきではない。
「じゃあ、俺とソウさんがチャットセックスしても、ハシさんは平気ってことですか?」
「ソウがやってみたいというなら、俺は止めませんし、編集も協力します」
「えっ、マジですか! 俺の動画をハシさんが編集してくれるなんて夢みたいだ!」
黒丸の声が一気に弾んだのがわかる。
「いや、そんなに期待されても困るけど。きっと技術は、今の君のほうが上だよ」
「違うんスよ、これってセンスの問題なんですよ! 俺、ハシさんのセンスが超好きで!」
黒丸の口調は敬語ではあるが、興奮しているのか、くだけた言い方になってきている。
「……やります」
「えっ、ソウさん。今、なんて?」
「やる……やります。黒丸さん、お願いします」
望月の返事に耳を疑い、思わず隣を見る。
「おまえ……まだここで決めなくても」
「やった! 俺、ソウさんを絶対気持ちよくさせるから、まかせて!」
まさか望月がここで即答するなんて思わなかった。しかし、黒丸はすっかりソノ気になり、具体的な撮影スケジュールを決め始めた。結局、撮影は来週で、お互い音声チャットしながら、固定カメラで行い、その動画を大橋が編集するということになった。
唯一、大橋が口を出せたのは、動画の編集が終わり、投稿のメドがつくまでは、二人のコラボについては公表しないということだけだった。
「いやー、正直、二人は付き合ってるもんだと思ってたので、諦めてたんスよね」
「えっ……」
「ソウさん、ぶっちゃけ、メッセージもコメントも返事するなってハシさんに言われてません?」
「そうですけど……」
「おい!」
望月が即答し、大橋は慌てて制止する。
「そうだと思った。ソウさんに悪い虫がつかないようにしてんだろうね、愛されてるね、ソウさん」
「そういうんじゃなくて、こいつに、何か間違いが起きないようにってだけで」
「はいはい、そういうことにしておきましょ! じゃ、来週よろしくお願いします!」
最後に黒丸は、置き土産のように爆弾を残してチャット通話を切断した。
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