17 / 26
第16話:
「とにかく黒丸には、詳細を聞いてから考えさせてくださいって提案しよう」
「そのあとで、受けるの?」
「いや、内容を聞いてから判断するって話だ。当たり前だけど、おまえが嫌なら受けなくていい」
望月は、わかった、と呟いて、返事を入力し始めた。
結局、そのあと撮影をしたが、望月自身、イクことはできても調子はいまひとつのようだった。きっと黒丸の件を気にしているのだろう。
望月が本調子じゃないときの動画は、お蔵入りにしたほうがいいかもしれないな、と考えながら機材を片付けていた大橋は、シャワーを浴びにいく前にメッセージをチェックしていた望月から「返事が来ている」と呼ばれ、パソコンの前に駆け寄った。
黒丸からの返事は、こちらがメッセージを送ったすぐあとに届いていたようだった。すぐに望月とメッセージの内容を確認すると、返事をくれたことについての、丁寧なお礼が述べられていた。
「チャットはいつでも大丈夫です、か」
そして詳細を聞いてから決めたいという、こちらの申し出には了承してくれた。
「ねぇ、大橋くん、僕ひとりじゃ無理だよ。そばにいて」
まだ下着一枚の望月が、大橋の腕を掴んで懇願している。
「わかった。じゃ、編集している友人も一緒にチャットに参加してもいいなら、って返事しとけ」
頷いた望月は再び画面に向かって文字を打ち始める。そして、すぐに返事が届き、二時間後に黒丸と音声チャットをすることになった。
連絡先交換を終え、いよいよ黒丸と音声で会話をするときがきた。
「じゃあ、音声つなげるね」
「おう」
大橋と望月はパソコンの前に座り、音声はスピーカーで聞こえるようにしていて、卓上マイクでこちらの音も拾えるように準備をした。
「もしもし……」
「はい! ソウさんですか? はじめまして黒丸です」
明るくハキハキとした声で挨拶が聞こえる。
「ソウです。よろしくお願いします」
「わあ、すっげぇ。動画とおんなじだ!」
「あ、はは」
明るい黒丸の反応にソウは少し、安堵した表情を浮かべる。
「隣に編集している人もいらっしゃるんですか?」
望月は、ちらりと大橋に目を向ける。
「はい、います。同席を許可していただき、ありがとうございます」
大橋が挨拶すると黒丸からの返事がなかった。聞こえなかったかな、ともう一度伝えようと口を開いた瞬間だった。
「ああ、やっぱり俺の思ったとおりだった」
「何がですか?」
「あなた、ハシさんでしょ」
「ハシさん?」
望月が繰り返した名前に大橋は聞き覚えがあった。しかしなぜ、その名前を黒丸が知っているのか。
「俺、あなたの実況動画大好きだったんですよね」
ともだちにシェアしよう!