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第12話

「あの、どうして?」 「とある方からのご命令です。和斗様もそろそろ結婚を考えなけれはならない年齢です。男娼を囲う分には一向に構わないのですが、結婚しないと宣言されては黙ってなどいられないとのご意向で、私が動く事になりました」 「そう……ですか」 「幸い、貴方は和斗様から離れたいと思っていたようですので、慰謝料代わりに今後の生活は、衣食住全てを保障させて頂くそうです」 「いえ、僕は……普通に生活できればそれでいいので、家に帰して頂ければ……」  悪夢が終わった事が(いま)だに信じられず、実感も湧かないままに途切れ途切れにそう話すけれど、それはあっさりと却下された。 「いずれは自由に動けるようになるでしょうが、当分の間……和斗様の貴方に対する執着が落ち着くまでは、こちらの指定したマンションで暮らして頂きます。落ち着きましたら新しい戸籍と名前を用意しますので、それまでは療養も兼ねてゆっくりお過ごしください」 「戸籍? 名前って、俺にはちゃんと……」 「貴方は戸籍上死亡した事になっています。そして、貴方の存在を知っている親族はほんの一握り。和斗様の失脚を願う人間に貴方の存在が知れれば、アキレス腱になります。中には本当に消してしまえという意見もあるようですので、暫くは大人しくしているのが賢明かと」  淡々と話す男の姿に、心臓がかなり音を速めて血の気がどんどん引いて行くのが自分自身でも良く分かる。  疲れきっている頭の中では全ては理解できないが……それでも彼の話す内容の恐ろしさだけは肌で感じた。  *** 「……きて、起きて、圭太」 「んっ……うぅ」 「起きろって言ってるんだよ」 「ぐぅ! ああぅっ!」  突如、身体の芯を貫いた強い衝撃に……圭太の身体は跳ね上がり、同時に聞こえたカチャリと響く無機質な金属の音に、これがさっきまで見ていた夢の続きであればと心底願った。  だけど、現実は酷く残酷で。 「ああ、強すぎたかな?」  優しげに響く声音は今も三年前と変わらない。 「だけど、圭太が悪いから……しょうがないよな」 「ゔぅっ! やぁぁっ!!」  再度襲った痛みと熱に圭太は瞳を見開いた。 ――痛いっ! 痛い!  この衝撃は知っている。だけど、ここまで直に身体の中を貫く痛みは初めてで、だから圭太は身体を捩って逃れようとのたうった。

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