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第11話

 *** 「……きて、起きてください」 「ん……うぅ」  控えめに肩の辺りを叩かれ圭太がどうにか瞼を開くと、見知った顔が視界に入って朝なのだと理解した。 「朝食の準備が出来ました」  (うやうや)しく頭を下げてそう告げてくる壮年の男は、和斗の執事で年は多分四〇代くらいだろう。 「……はい」  昨日散々穿たれた身体に鞭を打ってベッドから降りると、圭太は床へと四つに這い、部屋の隅に設置されている犬用の食器の方へと移動を始めた。  もしここで、要らないと言ったり二本の足で歩いたりすれば、すぐに和斗に連絡が行って後で酷い仕打ちを受ける。 「んぐっ」 「あ、大丈夫ですか?」  首輪に繋がる鎖を持つのはこの時執事の仕事だが……時折こうして強く引くのはわざとだろうと分かっていた。 「終わったら身体を洗って差しあげます」  頭上から響く執事の声に、見下すような視線が怖くて顔も上げずに圭太は頷く。 「これは、先に外して置きますね」 「!」 「さあ、お食べください」  あくまで静かな声音だけれど、彼の取った意外な行動に圭太は思わず息を飲み込んでゆっくり執事の方を見上げた。  首輪が、外されたのだ。 「あっ」 「お気に召しませんか?」  洋服を差し出しながらそう告げて来る執事の男に、どうすればいいか分からなくなるが震える指でそれを掴む。 「今日から和斗様は仕事の都合で三日ほど帰ってきません。その間、イイ子にしているようにと伝言です」  執事の話す内容と、行動のちぐはぐさに圭太はかなり戸惑ったが、彼が指で促すままに久しぶりの洋服を着た。 〝カメラは故障で止まっています。音声は生きているので、逃げたいなら黙ってついて来て下さい〟  置かれた靴も履いたところでそう書かれた紙を見せられて圭太は瞳を丸くする。 ――信じて、良いのか?  一瞬戸惑い立ち竦むけれど迷っている暇などないし、なぜ執事である彼がこんな行動に出たか分からないけれど、既にここに来て何カ月もが経過している状況から……(わら)にも縋るような思いで圭太は小さく頷いた。  クリーニングのカートに乗せられ頭上から布を被った圭太は、受ける振動が変わったことで、車に乗せらたのだと知った。  そのまま数分移動したあとで一旦車は停車して、カートから外に降りたところで、高級外車に誘導される。  こうも上手く事が運ぶとは信じられない気分だが、徐々に落ち着いてきた圭太は、まだ一緒にいる執事の男へ控えめに声をかけた。

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