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第3話

「琴也、僕は君に告白したいことがあるんだ」  ソーダ味のアイスキャンディーを食べながら鈴真が言った。  うだるような暑さの下でも鈴真は汗ひとつ掻かなかった。そればかりか真夏だというのに長袖シャツを身に着け、第一ボタンすらきっちりと留めていた。腕まくりをする鈴真の姿は全く想像ができないが、思い起こせば琴也は彼が積極的に素肌を見せようとしないことに気がついた。  鈴真の告白とはそのことなのだろうか。それにしても、琴也にとってはあまり面白くない話だ。 「告白って、俺に秘密にしていたことでもあるのかい?」  琴也は口を尖らせた。かれこれ十年近く付き合いがあるのに、鈴真が秘密を抱えていたことが面白くなかった。 「話してみろよ、鈴真。俺に話してみろ」 「でもこれを言ったら、琴也は僕を嫌いになるかもしれない」 「嫌いになんかなるものか」  鈴真のことを嫌う日なんか一日だって来やしない。 「もし今この瞬間、俺に告白しないなら、そのアイスキャンディーを取り上げてしまうかもしれないぞ」 「酷いこと言わないでよ。たまにしか食べられない貴重なご褒美なのに」  厳格な家庭で育った鈴真は買い食いが禁止されていた。時折琴也は鈴真の家族の目を盗みながらこうして彼の好物である甘味を買い与えていた。なぜだか鈴真には甘くなってしまう。  傍にいて当たり前な存在なだけに、琴也は鈴真が求めるものすべてに応えようと、幼い頃から思っていた。 「ねえ、琴也聞いてる?」 「ん? ああ、聞いているよ」 「本当に? 信じられないなあ」 「本当だってば。ほら、鈴真のほうこそしっかりしろよ。垂れているぞ」 「ええ? ああ、本当だ」  陽射しに照らされたアイスキャンディーはゆるゆると溶け始めていた。木の持ち手に流れ落ちる甘い汁を、鈴真は器用に舐め取った。 「さすがに暑いなあ」 「袖を捲ってみたらどうだい?」 「ううん、ここじゃなあ……」  琴也の予想はおおかた当たっていたようだ。渋る鈴真を見て、琴也は少し意地悪をしてみたくなった。 「俺に告白したいんだろう?」  琴也は人好きのする顔で言った。鈴真が断れないと知りながら。 「それじゃあ、告白しよう。琴也、僕はもう君の傍にいられないかもしれないんだ」 「……それはどういう意味だい? 地元を離れるってことかい?」  琴也がそう問うと、鈴真は首を横に振った。 「琴也。君の傍を離れなければならないんだ。僕は君の隣にいられない。相応しくないんだ」 「お前の隠し事に俺が関係あるのか?」 「はっきり言うよ。僕は君のことが好きなんだ。だからこそ、傍にいられない」 「なんだそれ。酷い告白だな」  琴也は鈴真の告白を本気と捉えることなく冗談だと思いこんでいた。笑いながら話を流した琴也を、どういう顔で鈴真が見ていたのかは知る由もなかった。  鈴真が琴也の前に現れなくなったのは数日後のことだった。

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