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わたしのお父さん

 ざざん……。ざざん……。  あの頃と変わらない波のさざめきが、体の全てを包み込む。 「どうした、耶雉」 「あの頃のことを、思い出していました。僕が、流れ着いた日のことを」  耶雉は浜辺につと立ち、寄せては返す波を眺めていた。日差しは少し強めだが、都の暑さに比べれば心地良いくらいだ。  季節は、耶雉が月ノ輪へ来てから二度目の夏を迎えていた。是愛は長めの休暇を取り、耶雉と共に海辺の別宅を訪れている。 「……王妃さま、太子さま……僕は、ここで生きていきます」  海のむこう。遠い遠い祖国・黎星に向けて、耶雉は囁いた。それに続けるように、是愛が口を開く。 「私が、一生をかけてともに生きよう」 「はい……!」  微笑むと、小波が寄せ、ひと際大きな飛沫がたった。 「あ……」  何かを水中に見つけたのか、耶雉が屈む。 「見てください。綺麗な貝です。玻璃乃さまに、贈ってもいいです?」 「ああ、きっと喜ぶだろう。海乙女からの贈り物だと」  薄桃色の貝を手のひらに乗せる耶雉を、是愛は後ろから抱きすくめる。  少し、風が強くなってきた。 「戻りましょうか、……お父さん」 「……なんだ? それは」 「ふふ、この国のひとは、夫のこともそう呼ぶと学びました。玻璃乃さまから教わったんですよ?」 「なるほど。はは、確かにそうだな」  そうして笑い合う二人の声は波の音と混ざりあい、どこまでも続く空へと響いていった。   了

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