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十五,三日夜餅

 ふと意識が戻ると、隣で寝ていたはずの是愛の姿がない。  耶雉の体には行為の跡形もなく、意識を手放す前に体の奥で感じた是愛の体液も、触れ合った汗の気配も感じられなかった。  今までのことは都合のよい夢だったのだろうか。不安に心を揺らいでいると、なんだか香ばしい香りが近づいてくる。こんな夜更けに不釣り合いの、何かを美味しそうに焼くような……。 「ああ、すまない。起こしてしまったか?」 「いいえ、あの……」  戻った是愛は、膳を彼らの前に並べ始めた。膳に乗せられているのは、焼かれた餅だ。 「……勝手に体を拭いてしまったのだが」 「あ、僕なら……大丈夫ですよ」  契りの名残りがなかったのは、そういうことだったのか。いや、思えば少しの動作も重たく感じる。それに気恥ずかしさを覚えながら、耶雉は目の前の疑問を口にした。 「あの、これは?」 「……本来なら、夜を共にして三日目に食べるのだが」 「え……?」 「……この餅を共に食べれば、我々は正式に連れ合いとなる」 「あ……」  耶雉は察した。これが月ノ輪国での婚儀の一つなのだろうと。  なんだかじわじわと、頬に熱が集中していく。 「私としたことが随分急いているらしい。柔らかい餅をこの時間から用意するわけにもいかず、干して保存していた餅を焼いてしまった」  そう苦笑した是愛がどんなに愛おしいか。咄嗟に月ノ輪語にできず、耶雉は悔しかった。けれど、この先いくらでも、愛を伝える時間はあるのだろう。 「夜が明けたら、耶雉の国でされる婚儀のことも教えてくれ。二人で……いや、玻璃乃も含めて正式に婚儀を挙げよう」  ああ、やはり今すぐ、この愛しさを告げる言葉がほしい。耶雉はそう願って、黎星語で答えるのだった――。

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