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十四,愛しい人
「…………そんな、満たせないなんて、とんでもな――」
そう答え終わる前に、是愛は耶雉を強く抱きしめ、唇を重ね合わせた。柔らかな感触を絡めて、互いの熱さに酔う。
「んっ……」
首筋に是愛の唇が触れる。それが音を立てる度に、肩や背中を何かが走るようだった。感じたことのない気配に耶雉は身を捩る。
「耶雉……恐ろしくはないか?」
「だいじょう、ぶ、です。是愛さまだと、分かってますから……っ」
二人はもつれるように、夜具に体を預けた。是愛が皮膚に触れると、熱を持ったように甘く痺れていく。それを伝えたくて、耶雉も是愛の肩を撫でた。
「あ……是愛さま」
「どうした?」
「是愛さま、こういう顔も、されるんです、ね」
ややほつれた是愛の前髪に指を絡めて、ふふと笑う。あまりの甘美に、是愛はその衣の袷を開いた。
「あっ、僕の体……気味悪くは、ないですか。月ノ輪にはない、風習なのでしょ」
「気味悪くなどないさ、これが耶雉の体なのだから」
耶雉の夜着を開ききると胸から腹へと手を滑らせていく。
「んんっ」
腹部の中から迫る憶えのない感覚に、耶雉の体はぴくりと跳ねた。
「や……」
「これは痛かっただろうな」
骨格のしっかりした手が、中央に辿り着く。これ、は件の傷跡を言っていた。
「……半年は寝込みました。でもいまは痛くな……あっ!」
あったものがかつて存在していた場所に、舌が走り、耶雉は喉を震わせる。
「だめ、だめ……そんな……っ」
それと同時に丸みを帯びた腰から臀部を愛撫され、なんだか体の力がすべて抜けてしまいそうな、けれど力んでしまうような感覚に襲われていた。
思春期の時点ですでに性器を失っていた耶雉は、こういった性的な快楽は初めてで、ただ是愛に身を委ねるしかできなかった。
「はぁっ、僕も……是愛さま、触れたい、のに……」
「ああ……好きに触れてくれて構わない」
尻についた柔肉をぐっと拡げられ、耶雉はまた声を上げるしかなかった。
「ひあ、あの……そういう経験は、本当に、なくて」
「……ああ、私だってない」
知識としては聞いたことがあった。宮中でのぼりつめるため、上司と体の関係を持つ者もいると。
是愛は棚に置かれた手箱を探ると、肌の保湿を目的とした化粧用の油を取り出した。
「大切なことだから……少し、耐えてくれ」
たっぷり油を塗って、その孔を解していく。口元は押し返すように締め付けがきついものの、指先が入ってしまえば、内部は吸い付くように侵入を受け入れた。
「ん……んぅ……あっ、あ」
その奥で、使われることはなかったが存在はしている、ある部位に触れられると腰が溶けてしまいそうになった。
「は……そこ、だめ……っ、なにか、あたって……」
開き始めた孔から、臀部の溝を油がぬらぬらと伝っていく。あまりにも扇情的な様子に、是愛の吐息は荒く弾んだ。
「あ、の……もう、へいき、ですから……だから……」
是愛の髪をそっと撫で、耶雉は彼を招いた。早く繋がりたい。身も心も一つになって、契りたい。切なる想いで、耶雉はたどたどしくも是愛を掻き抱く。
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