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monologue1

「好きだ」 頭が真っ白になって、周囲の喧騒さえも掻き消えるというのはこういうことだと思った。 突然の出来事は脳の理解力を超えていて、なにが起きたのか分からなかった。 視界にある凛々しい眉は寄せられ、真剣な眼差しを向ける切れ長な瞳から目が逸らせない。 両手を握る厚みのある大きな手は、同性だというのに細い自分の手とは全く違うなとぼんやりと思った。 いや、そうじゃなくて。 軽く逃避していた思考を慌てて現実へと引き戻す。 ……告白、されました。しかも同性に。 何度もその事実がぐるぐると混乱する頭の中を巡る。 「一目惚れだ。結婚を前提に付き合ってくれ」 ――いや、無理です。 追い打ちを掛けるように告げられた言葉に、不意に今の状況を脳が理解する。 すると、急に背筋がひんやりとした。 消えていた喧噪も耳に飛び込み始め、夜の居酒屋でバイト中だったことを思い出したのだ。 それまで気づいていなかった周囲の人たちの好奇の視線が突き刺さり、瞬時にどうこの場を切り抜けようか考える。 もしかして、酔ってる……? だが、戸惑うほど瞳は真っすぐに向けられ、羨ましいほどに整った顔は涼やかで、職業柄見慣れた酔っている感じはない。 恰好も、狭い居酒屋には不似合いなくらいの身綺麗に整えられたスーツで、いかにも出来る男だ。 「ありがとうございます。じゃあ、俺仕事があるので」 違うとは思うが、新手のクレームかもしれない。 酔っぱらい相手に向ける最上級のスマイルを向けて、やんわりと手を離す。 自分の担当はホールだが、一旦厨房へと逃げよう。 同性に告白されるという初めての事態に、頭が混乱してて他に逃げる手が思いつかない。 「待ってくれ」 「すみませんお客様。ご用件でしたら俺がお伺い致します」 引き留めようとしてきた男性に内心焦った時だ。 同じホール担当で、バイトの先輩である亜門(あもん)さんが颯爽と俺と男性の間に割って入る。

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