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いつもはやる気がなく、猫背が目立つ背中が今は大きく見えた。
つい逃げるのを忘れて見入いってしまっていたら、振り向いた亜門さんと目が合う。
早く行けと、あからさまに面倒そうな瞳に、あ、いつもの先輩だと思いながら急いで厨房へと逃げた。
ラストオーダーの時間を過ぎた静かな厨房では、閉店の二時間前から一人でキッチンを担当する店長が作業台に寄りかかり、飲み物を飲んで寛いでいた。
ペットボトルを傾けたまま視線が向けられる。
「どうした佐々木。青い顔してるぞ」
「いや……えっと」
店長ののんびりとした声に、急に現実に戻ってこれたような奇妙な安堵が込み上げて、その場にへたり込んでしまう。
自分で思っていたより緊張していたみたいだ。自然と大きなため息が出る。
「客とトラブルか?あと五分で店閉めるっていうのに来た客か?」
「そのお客さんなんですけど……トラブルではないです」
「ほら」
「……ありがとうございます」
冷蔵庫に閉まっていたペットボトルのお茶を店長に差し出され、受け取ってキャップを開けて飲んだ。
苦味のある緑茶が、乾いていた喉を潤していく。
「男に……告白されました。しかもプロポーズまで」
言っていいことか迷いながらもたどたどしく語れば、暫しの間が空く。
「そりゃ……すげえな。お前さんの様子からするに酔っぱらいってわけでもなさそうだな」
「まあ、冗談だと思うんですけど。まさか男に告白される日が来るとは思わなくて」
「別にいいよ。どうせもう店仕舞いだしな。それに、夜の居酒屋なんて変な客はたくさんいるし、気にすんな」
がしがしと頭を撫でられる。
変わらずのんびりとした店長のおかげか、不思議と気分も落ち着いていく。
緑茶をもう一口だけ飲んでキャップを閉めた。
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