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ぐったりと、だがそれを表に出さないようにしながら車窓の景色を見つめる振りをして、疲労を気取られないように郁也さんから顔を逸らす。
数十分前まで俺がいた世界は、あまりに今まで生きてきた世界とかけ離れていて強い緊張と困惑の多さに気疲れしてしまった。
「疲れてしまったか?先程の店は気に食わなかっただろうか?」
思わぬ言葉に、隠していたつもりの疲労が表に出ていたのかと焦る。必死に作り笑いも浮かべて否定する。
「そんなことないです!俺には勿体ないぐらい美味しくて、本当にありがとうございます……!」
「密、気遣いは無用だ。君が嫌がることはしたくない。食事が気に食わなかったか?それとも外食が嫌いか?」
運転中の郁也さんの顔は正面に向けられていて、助手席に座る俺からは横顔しか見えない。
気分を害してしまったかと思ったが、怒っているわけではないようでひとまず安心した。
「……嫌いではないです。ご飯も本当に美味しくて、だけど、俺は今日連れて行ってもらったお店のような場所は経験がないのでどうしても緊張してしまって……すみません、せっかく連れて行ってくれたのに」
俺の下手な誤魔化しはとうに見透かされている気がして、躊躇いはあったが悩んだ末に白状することにした。
だが、決して疲れているだけであって不満があるわけではない。
俺が一生懸命頑張っても将来行けそうにない立派なお店に連れて行ってもらって豪華なコース料理も食べさせてもらえて、加えてお金を払う事は断られて食事は郁也さんの奢りだ。不満なんてあったら天罰が当たる。
「誤解をしないでほしい、俺は怒ってはいない。だから身構えないでくれ」
誤解をさせたらどうしようとビクビクしていたら、容易く見透かしたように郁也さんに告げられてしまう。
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