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monologue3

外から帰宅して「ただいま」と言いながら家に上がる。まだ慣れない言葉に嬉しくなり、胸が熱くなるのを感じた。 もう一人じゃないのだ。そう思うと自然と笑みが浮かんでしまう。 「明日からよろしく頼む」 「はい!よろしくお願いします」 気を取られていたせいで振り返った郁也さんに気付かず、声を掛けられて鼓動が跳ねる。慌てて返事をして頭を下げた。 明日からは家政婦としての仕事が始まる。そう思うと心地の良い緊張と役に立てる事の嬉しさが込み上げる。 「明日の事だが、密にお願いする仕事は事前に口頭や書類で伝えていた通り、一般的な一通りの家事だ。料理、掃除、収納、主にこの三つの分類になる。洗濯はマンションコンシェルジュにクリーニングを取り次いでもらう。密の学業と仕事を優先に、必ず無理はせずに空き時間に行ってくればいい。ここまでは大丈夫だろうか?」 「はい、大丈夫です」 「俺の一日のスケジュールは秘書から、密の部屋に設置しておいたパソコンのメールアドレスに送信しておくように言っている。返信の必要はない。家事の参考にしてくれ」 郁也さんの言う通り、部屋には勉強机の上にノートパソコンがあった。好きに使用していいと言われているがまだ触っていなかった。 「わかりました。部屋に戻ったらすぐに確認します」 「ああ、頼む。ありがとう。密が家政婦を引き受けてくれて心から感謝している。密は俺の恩人だ」 まだ何もしていない俺には不相応の感謝だと理解しているが、それでも郁也さんの真っすぐな言葉は胸に響く。 感謝をするのは俺の方だ。郁也さんがいなければ俺は路頭に迷っていた。 「俺の方こそ、郁也さんには感謝してます。俺にとっても郁也さんは恩人です」 ありがとうございますと心からの感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。

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