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02
「俺、郁也さんに喜んでもらえるように頑張ります」
決意を胸に頭を上げ、真っすぐに郁也さんを見つめる。郁也さんは優しく笑って「ああ、頼む」と言ってくれた。それだけで単純な俺の心は嬉しさとやる気に満ちる。
「おやすみ密」
同じように挨拶を返そうとした時だ。郁也さんの手に両頬を包まれ、近づいてくる端正な顔に息を呑む。頭が一瞬にして真っ白になった。
次の瞬間、長い指に前髪を優しく掻き分けられた額に柔らかな感触とくすぐったさを感じた。
「良い夢を見てくれ」
そう告げられてようやく、額にキスをされたのだと遅れて脳が理解する。途端、かああっと全身が熱くなる。
狼狽えて額に触れれば、キスをされた時の感触が鮮明に蘇ってきて思わず手を離した。
「ど、どうして……」
口を魚のようにぱくぱくさせながらようやく絞り出した声は震えて、動揺のあまりすぐに言葉に詰まってしまう。
すると、そんな俺を郁也さんは可愛いものでも見るような目で穏やかに見ていたが、俺の言葉に察してくれたのだろう。
「就寝前の挨拶のキスだ。密も俺にしてくれないか?」
「き、キスをですか……っ!?」
声が上擦ってしまう。心臓がうるさいくらいに騒いで、全身の熱が更に上がる。
俺がおかしいのではないかと思う程さらりと当然のように返されるが、日本にそんな習慣はない。そもそも父親とすらろくに顔を合せなかったのだから、初歩的なスキンシップへの免疫もないのだ。
――できるわけがない。
激しい羞恥心に後ずさりそうになり、ぐっと堪える。何も言わず逃げたら郁也さんを傷つけてしまうかもしれない。職場の時のようなことはしたくない――その一心で逃げたい衝動を抑えつける。
だが、だからといって郁也さんに自分からキスをする勇気はなくて、ひたすら身動きもできずに狼狽えるしかない。
熱すぎる体温のせいで頭がくらくらして意識を失いそうだ。
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