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第58話
「このまま待てない。どうにかして道を外れてくれ」
「これでは無理です。少しずつしか動きません」
停滞してしまった車の中で、獅旺が夕侑を抱きしめる。そして、意を決したかのように低く言った。
「この近くで、どこか、ふたりきりになれる所はないか」
運転手は事情を察したのか、カーナビの画面を急いで押した。
「連れこみしかありませんが」
「連れこみ?」
「……ラブホテルのことです」
「それでいい。向かってくれ」
運転手は無理矢理、その場で方向転換をして細い脇道にそれた。抜け道を探りながら、車を進めていく。どの道も渋滞続きで、彼は苦労しながら車を走らせていった。
「夕侑」
獅旺が名を呼ぶ。夕侑の身体は、その声だけでジンと疼いてしまった。
「待ってろ、すぐ楽にしてやる」
全身が火をふいたように熱くなる中で、獅旺の声は不思議な安堵を与えてきた。心の奥にあるとざされたゲートが、彼にだけひらいていくような感覚に陥っていく。
しばらくすると、運転手は田舎道にポツンと建つ小洒落たビルの駐車場に車を入れた。車がとまると同時に、獅旺が夕侑を支えて転げるように外に出る。
誰にも会わずに部屋までいける造りのラブホテルらしく、そのまま急いで建物に入り、獅旺はタッチパネルで空室を適当に選んで廊下を走った。
カードキーでドアをあけて、中に入りドアをしめると夕侑を壁に押しつけ、いきなり深く口づけてくる。
まるで噛みつくような激しいキスに、意識が遠のいた。
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