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第112話 最終話

「散歩をして、朝食をとって、それからゆっくり、ふたりのこれからについて考えていこう」 「これから……」 「そうだ。お前も俺も、やりたいことがたくさんあるだろう。それを、一緒に計画していくんだ」  ふたりの夢を、共に叶えていくために。  そう言うように、顔を近づけて夕侑の頬にキスをする。甘い仕草に心がときめいた。  明るい朝にそばにいてくれる恋人。こんな日が自分にくるとは、以前は考えもしなかった。 「はい」 夕侑が幸せに微笑みながら答えると、相手も凜々しい笑顔を見せる。その姿は明るい未来へと夕侑を導いてくれるヒーローのようだ。 「じゃあ、出かけるか。俺は獅子になっていく」 「わかりました」  夕侑は急いで服を身につけた。それからふたりで屋敷を出て、敷地の裏に広がる林へと向かう。朝方の空気は肌寒かったけれど、澄んでいてとても気持ちがよかった。  獅旺が先導して、木々の中を走り抜けていく。黄金色の獣姿は悠々としていて力強く、王者の風格に満ちていた。あの美しい獣が自分の番なのだと思うと、胸に熱いものがこみあげてくる。  もう、獅子を怖いとは思わなかった。  それよりも愛おしいという気持ちのほうがずっと強く心を占めている。  獅旺は夕侑の元へと戻ってくると、じゃれつくように周囲を回った。夕侑は腰をかがめてたてがみに触れ、それから大きな口にキスをした。すると獅旺も舌を出して顔を舐めてくる。  夕侑のことが好きでたまらないという仕草に、くすぐったくて思わず声を立てて笑えば、獅子も嬉しそうに尾を振った。  穏やかな朝の光がふたりを包んでいる。  頭上からは、鳥たちの明るい鳴き声が聞こえてきている。  まるでふたりの未来を祝福するかのように。  朝日が輝く中、楽園にいるような幸せに夕侑が心からの笑顔をみせると、獅旺もまた楽しそうに、喉を鳴らして応えてきたのだった。                        ――終――                           

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