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第111話
「いいえ。ぼわぼわしていていやされました」
「ぼわぼわ?」
「たてがみが」
「ああ」
獅旺はちょっと恥ずかしそうにしながら身を起こした。
「怖くないのならよかった」
そして窓の外に目を移して言う。
「もう朝か」
「はい」
「よく眠ったみたいだな」
「そうですね」
窓の向こうは晴天のようだ。レースのカーテンを通して庭の木々が見えている。
「今日は天気がいい。どうだ、朝食の前に少し散歩に出ないか」
「え」
「別荘の裏に、雑木林が続いている。ここにきたときは、いつもそこを朝方に駆けにいくんだ」
「でも、僕は……」
いつ発情するかわからない状態で、敷地の外に出るのはまずいのではないか――と、そこまで考えて、気がついた。
もうその心配はしなくてもいいのだ。
「俺さえそばにいれば、大丈夫だろ」
夕侑の憂いが何かわかったようで、獅旺が微笑む。
「ええ、……そうですね」
獅旺さえいてくれたら。これからは、どこへでも心おきなく出かけていけるのだ。
その喜びがじわじわとわいてくる。自然と笑顔になると、獅旺が夕侑の肩を抱きよせた。
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