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第110話 ふたりの明日
鼻先をくすぐる、ふわふわした感触に、眠りからゆったりと目を覚ます。
南側の窓からは朝日が差しこみ、部屋の中には明るい陽光が満ちている。夕侑は目を瞬かせ、枕元まで延びてきている日光に目を細めた。
時計は午前七時を指している。
「……ん」
あれからふたりは何度も抱きあい、そのまま夜を越したらしかった。
眼前には、黄金色の獣毛がある。
「……ぁれ」
夕侑の隣では、大きな獅子が寝そべっていた。
まだ眠っているらしく瞼はとじられ、すうすうという寝息に腹が上下している。
「獅旺さん……」
シングルベッドのほとんどを占領する大柄な獣に、夕侑は裸体を包まれていた。
獅子の毛足はしっかりしているが、もふもふしていて暖かい。そっと指先でなでてみると、なめらかな感触に思わず笑みが浮かんだ。
今まで夕侑は、こんなふうにネコ目の動物と触れあったことがなかった。だからその心地よさも知らないままだった。
獅子の胸元に顔をうめて、たてがみを指ですけば、コシのある毛がむき出しの肌に触れて何とも言えずくすぐったい。猫好きの人が猫にいやされる気持ちが初めて理解できた気がした。
そうしていると、獅子の耳がピクピクと動く。前足を動かしてブルリと身を震わせたかと思ったら、その瞬間ヒトに変化した。
「……あ」
もっと触れていたかったのに。
少し残念に思いながら顔をあげると、寝起きの獅旺と目があった。
「……寝ながら変身してしまったようだな。怖くなかったか?」
心配げにたずねられて、夕侑は微笑んだ。
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