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if~もう一つのアリア~
注意:本内容は10章のダツラ編になります。ダツラ×トウキが許容出来ると言う方のみお進み下さい。
「つーわけで、ここに書いてあるヤツ探してくれ」
カッセキがガラクタの山を指さして話しかける。
鉄屑の集落に来て数日、いまだ体力の回復しないデリスの面倒をロカイに任せトウキとダツラは彼の手伝いに駆り出されていた。
「え~。メンドウ」
明らかにやる気の無いダツラが資料を受け取りながらぼやく。
「ったく。一宿一飯の恩義くらいはらってけ」
カッセキ達に世話になっている内容を考えれば一宿一飯どころでは無いのだが、それでもダツラは不服そうだ。
(えー、と。これ・・・・じゃなくて。こっち・・・とこっちはどう違うのでしょうか?)
一方のトウキは先程から真剣にガラクタの一団と向き合ってはいたが明らかに効率が悪い状態だ。
遅々として進まない光景にカッセキは深い溜息を吐いた。
「こんなモンか」
腰に手を当てて伸びをするカッセキ。目当ての物は見当たらなかったのだが代わりに気になる部品を発見したらしく満足そうだ。というよりも子供の様に早く帰りたがっている。
「トウキ君帰ろー」
ダツラに呼ばれ、まだガラクタの山で悪戦苦闘していたトウキも立ち上がる。
ーが。
「っ!」
ガラクタの山で作業をしていたトウキは絶妙に積み上げられていたガラクタ達の均衡を破ってしまった。
要するにガラクタの山からバランスを崩して転げ落ちてしまったのだ。
「トウキ君っ!」
ダツラが駆け寄るよりも早く、トウキは埃を舞わせて地面に激突する。
「平気?」
慌てたダツラが心配そうに顔を覗き込んだ。ガラクタの多くは金属で出来ている。当たり所が悪ければ大怪我を招きかねない。
(大丈夫ですよ)
幸い擦り傷以外に目立った怪我は無い。トウキは笑って立ち上がろうとするが、その瞬間足首に鋭い痛みが走った。
「っ・・・・」
再びバランスを崩し今度はダツラの胸に倒れ込んでしまう。
「ケガしたの?」
ダツラの問いにトウキは首を振る。一瞬驚いたが掴まって立てば問題ない痛みだ。きっと大丈夫、そう思ってもう一度ダツラに微笑む。
「・・・・・・・・」
けれどダツラの方は納得しない表情で一度唇を噛むと簡単にトウキを抱き上げてしまう。
「っ?」
そのまま歩き出したダツラから逃れようとトウキが足掻く。
(あの・・・・本当に大丈夫ですから)
恥ずかしさよりも迷惑を掛けている申し訳なさから、どうにか彼の腕を降りようとするが身体に回された拘束が緩むことは無かった。
「こ~ら。あばれちゃダメだよ。でないと」
耳元に口を近付けて「ヒドイことしちゃうよ」と囁く。
妖しげな声音にトウキは身を竦ませる。その様子を見てダツラは楽し気に笑った。
尤も2人が想像した『ヒドイこと』には大分違いがあったが。
「無茶し過ぎだよ」
トウキの足首に包帯を巻きながらダツラが軽口をたたく。
「お兄さんは心臓がいくつあっても足りませんヨ」
足首がしっかり固定されたのを確認してダツラがウィンクした。彼の診断では軽い捻挫という事になっている。
(ごめんなさい)
軽いとは言え数日は要安静だ。つまりしばらくはこの集落から出られないという事だ。
結局また足を引っ張ってしまった。本来天使とはヒトに寄り添いそっと力になる存在の筈なのに自分は全く逆の行動を取っている。
あまりにも未熟な心と身体。
「・・・・・・」
自責の念から項垂れるトウキをダツラは頬杖つ着いて眺めていたが不意に口を開いた。
「いっそ全部捨てちゃえばいいのに」
トウキが重い何かを抱えている事は彼にも容易に理解出来た。それが教団の巫女としての役割に対してなのか失われた記憶に対してなのかは解からないが事ある毎にトウキの行動を制限させ顔に影を落とさせている。
それならいっその事ー。
「このまま僕と誰も知らない所まで行って、2人っきりで快楽を貪ってみない?」
何者にも侵される事のない堕落と享楽に満ちた不変的な生活。この子とならそれも良いとダツラは思っていた。
(それはー)
トウキが向き直る。
(幸せなのですか?)
素直な疑問だった。
流れのない水が濁ってしまうように歩むのを止めればいずれ色褪せ枯れて行く。この世界に存在する限り悠久に変わらぬモノなど無いのではないか?
「さあ?僕はヒトじゃ無いから分からない」
何かを察したダツラが目を伏せた。
自分を見詰める瞳。それはあまりにも真っ直ぐで純粋過ぎる。深紅の瞳に見詰められるとやがて自分でも見ないフリをしてきた場所まで暴かれてしまう気がした。
それはきっと、そう遠くない未来に。
「でもー」
ダツラが不適な笑みを見せる。
「僕の全ても知るにはそれなりの覚悟をしてもらうよ?」
そう言うとダツラはトウキに口付けをした。
「?」
急に口を塞がれ驚いたトウキが不思議そうにダツラを見る。唇は直ぐに離れたが、空気を求め口を開くと再び重ねられた。
口腔へ侵入した舌が怯えるように引っ込めていた小さな舌を絡め取ってしまう。
舌先でなぞられ弄ぶように引き摺り出された舌を啄まれると身体に甘い痺れが走った。
「っっ」
痛くは無いのに強い衝撃が身体を震わせる。
「良かった」
先程まで幼い口の中を支配していた舌を見せながらダツラが笑う。
「性感帯はあるみたいだね」
顔を近づけられたトウキは目と口を強く閉じて拒絶する。
(ダメ・・・・です)
ダツラの言葉は理解出来なかったが反射的に身体が拒んだのだ。
頭の中で警告音が鳴り響く。同じ衝撃をもう一度受けたらきっと自分は壊れてしまうと思った。
「それで抵抗したつもり?」
低くて楽し気な声が耳に届く。
結んだ口を何度も吸われ、滴るような指先が背中や脚を撫でていく。遊ぶように指の腹で内腿をなぞられると今度は甘い疼きが身体を蹂躙する。
身体の震えが伝わってしまい小さく開かれた口へ器用にダツラの舌が入って行く。
(ダツラさん……やめて)
頬が痛い程熱い。呼吸をしている筈なのにどんどん意識が掠れて行ってしまう。
自分が何をされているのか、自分の身体にどんな反応が起きているのか分からないままダツラの腕に縋るとそのまま強く抱きしめられた。
(…んっ)
口内に溢れた唾液を舐め取る水音が鼓膜を震わせ甘い刺激に変えていく。痺れも疼きも身体の至る所で生まれ下腹部に流れて行った。
「~っ!」
閉じた瞼が引き攣る。恐い筈なのに身体は言う事を聞いてくれない。
漸く唇が離されると熱にうかされた瞳でダツラを見た。
「まいった。ねえ」
ダツラが苦笑いする。
「キスだけで止(と)めておくつもりだったんだけど」
倒れ込むように板張りの床に押し付けられた。
「そんな可愛い反応するから最後までしたくなっちゃったよ」
ダツラの呼吸も乱れている。
これだけ身体に変調を来してもまだ終着点では無いのだろうか。
大熱に炙られた思考はもう逃げるという判断をしてくれない。
ケープを解かれシャツをたくし上げられると熱で桜色に染まった肌が露わにされた。
「・・・・っ!」
瀟洒な手が肌に触れようとした瞬間ー。
「なにやってんだ!!テメーはっっ!!」
怒鳴り声と共に空を切る音が響いた。
「ゲフッ!」
見るとデリスが鬼の形相でダツラを睨んでいる。そのダツラはデリスの放った回し蹴りが見事腹に命中したらしく蹲ってしまっていた。
(デリスさん)
「お前も慣れ合うな!」
怒りの収まらないデリスがついでにトウキへも手刀を浴びせる。
「ったく。ヤケに静かだと思ったら」
どうやら虫の知らせで病床から飛び起きたらしい。
恐るべき野生の勘、ツッコミの本能。
「もうソイツの戯れ言に構うなよ」
この場に留まらせるのは危険と重々知っているデリスはトウキの手を引き、立たせようとする。
その手を下から伸びたダツラの手が制した。
「人の恋路をジャマするなら馬に蹴られろって言葉知らない?」
腹を擦りながらダツラが起き上がる。
「はあっ!?」
けれどその言葉を聞いたデリスは本当に、心の底から嫌そうな顔をした。
「テメー何、気色悪イ事言ってんだ」
欲望と欲情に不抜である男から恋を語られてもデリスにとっては気持ちの悪いだけだ。
「あまり邪魔立てするならこっちにも考えがあるってこと」
「はんっ!やってみろよ」
売り言葉に買い言葉の応酬。
「じゃあー」
ダツラがニヤニヤ笑いながらトウキの耳を両手で塞ぐ。
「最近のオカズがトウキ君の寝顔だって本人にバラしちゃおうかな?」
「なっ!?」
暫しの沈黙。
の後、怒髪天を付いたデリスがダツラの胸ぐらを掴み激しく揺する。
「ふざけんな!何でテメーがそんな事っっ!!」
「えー?
冗談で言ったのにマジだったの( ´゚д゚`)」
再び暫しの沈黙。
「コロス!!!」
魔王の如く怒りのオーラを纏わせたデリスが立ち上がり拳を構える。
「男って結局皆こーなのよね」
ジャケットを脱いでダツラもまた応戦の構えを見せる。
訳が分からないのは一人置いていかれたトウキばかりだ。とは言えこの状況が非常に危険であることは理解できた。
(お二人とも…喧嘩は)
トウキが止めるよりも早く地続きのドアが勢いよく開かれた。と言うよりも爆発して飛んでいった。
「五月蝿いです」
静かに怒りを称えたロカイがランチャーを手に3人の前に立ちはだかった。
トリガーに手が掛けられる。
「あっ……ちょっ………!」
弁明するよりも早く引き金が引かれ3人が爆風に巻き込まれる。
「まったく。これだから男は」
静かになった室内でロカイは溜め息を吐いた。
………………………………………………因みに3人とも生きております。
宵闇の中でダツラは自分の手を見詰めていた。
あの時確かに自分は固執してみせた。自分の腕から小さな熱が逃げるのを拒み、恋などと言う凡庸な言葉を口にしてしまう程に。
欲しいものは手に入れて来た、けれど執着した事は無かった。
今はどうだろうか。あの子の全てを手に入れたい、それは前々から思っていた。けれど手に入れてそれで終われるだろうか、易々と手離せるだろうか。
思考中枢はNOを突き付ける。
ヒト特有の心境の変化が自分にも現れたと言うことだろうか。
回路は何も答えない。
つまりはダツラにとって未知の世界でもあるのだ。アンドロイドとして長く時を過ごして来た中で初めての境地。
それは危険もまた孕んでいた。選択肢を誤れば過去と自身を破壊しかね無い。
「でも、トウキ君が手に入るならバッドエンドも悪くないかもね」
腹の奥から絶対的快楽主義が顔を覗かせる。
甘い恋愛などとは程遠い想像を描く男は喉の奥で低く笑うと深い眠りに落ちていった。
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