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第0章~目覚める運命の序曲(前)~

東へ上りだした日差しが、割れたステンドグラスを通して室内に入り込んでくる。祈る者の絶えた教会は荒れ果て、ただ静かに朽ちる道へと歩みを進めていた。 静寂の中で小さな眠る息遣いだけが微かに聞こえる。板張りの床に(うずくま)るように身を投げ出した少年、幼さが残る顔立ちと手足、雪のように白い柔らかな髪が日差しを跳ね返している。 頬を撫でる風にむずがる様に目を開けると紅玉のような真紅の瞳が光を吸い込んでゆく。まどろんだまま体を反転させ仰向けになると天井の壁画が目に飛び込んで来る。神話を描いたそれは所々剥げ掛けても尚、それは荘厳さを保っている。 少年は考え込むようにしばらく見入っていたが、起き上がると自分の首に掛けていたペンダントを手に取る。四面体の匣形をしたペンダントヘッドは一箇所だけ少年の瞳の色と同じ真紅色の宝石が付いている。確かめるように小さく頷くと再び大切に服の中に仕舞い込むと出口に向かって歩き出す。  その表情は幼い顔立ちとは対照的に酷く思いつめた瞳で真っ直ぐに前を見つめていた。      重く軋む扉を開けるとより一層強い日差しが少年の顔を照らす。 水車の音、馬の(いなな)き。山間ののどかな村は日の出と共に目覚めだす。穏やかな風景に目を取られていると前から走ってきた少女とぶつかってしまう。 5歳位の小さな少女は転んだ拍子に持っていた紙をばら撒いてしまう。 「あぁ!ごめんね・・・!」 慌てて少女を抱き起こすと散らばった紙を拾い集める。紙はどれも真っ白な翼の生えた天使が描かれており、それぞれ(たずさ)えたえた杖から雷や洪水が放たれている。 それを見た少年は沈鬱に目を伏せる。それを見て少女は不思議そうに少年の顔を覗き込んでくる。 「・・・はい」 少年は慌てて優しく微笑むと紙の束を手渡す。 「ありがとう。お兄ちゃん」 少女はこぼれそうな笑みを浮かべてそれを受け取る。 「綺麗な絵だね」 「うん!あたしの宝物」 少年の問いかけに少女はうれしそうに答える。 「お兄ちゃんは・・・・誰?」 少女は好奇心に満ちた大きな瞳を教会のほうにくるりと傾ける。小さな村では訪問者など物珍しいのだろう。 「旅の途中で、あの教会に泊まらせて貰ったんだ。夕べはひどい雨だったから」 もっとも誰一人としていない建物なので無断で寝泊りする形となってしまったのだが。 「なーんだ。教会から出てきたから天使さまかと思ったのに」 少女は残念そうに口を尖らせる。 「天使・・・・・・」 そう呟く少年は再び顔を曇らせる。 「みんな言ってるよ。もうすぐ最後の天使さまがおりて来るんだって。そうしたら全部生まれ変われるんだって!」 その言葉の重さに気付かないまま少女はうれしそうに絵の中の天使を見つめる。 「ねぇ!みんな生まれ変われたら幸せ?嫌なことも悲しいことも無くなるの?」 無邪気な少女の問いに少年は答えられずにいた。

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