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ルームナンバー303

 俺はゆっくりコーヒーを飲んでいた。  自動ドアが開いて入ってきた人物は、真っ直ぐ俺のところへ来た。  蒼白な顔に浮かぶ悲壮な決意がいじらしい。  コーヒーを干した俺はカップを片付け、彼の先に立って店を出た。 「時間どおりだな」  何の反応もないが、後を着いてくるのは足音でわかっていた。  細い路地に並ぶけばけばしいラブホテル。その中の一軒の前で俺は立ち止まり、振り返った。 「逃げるなら今だぞ」  怯えた顔をしていた彼が怒りを見せた。俺の脇を通って中へ入っていく。俺は笑って、早足で彼に追いついた。  部屋の指定は俺がした。鍵を受け取るとエレベーターで三階へ上がり、奥へ進んだ。  303の表示があるドアの前で止まり、鍵を開けた。 「さあ、どうぞ」  彼は苛立ったような表情を見せたが、素直に俺の前を通って中へ入った。  カチャリと鍵をかけ、チェーンも掛ける。  そして、向きを変えた。  彼が室内を見て立ち尽くしていた。  笑いがこぼれる。  赤と黒を基調としたこの部屋の壁、あるいは天井から設置された拘束具、檻、拘束用の椅子、鞭、手枷、口枷、足枷、首輪、アイマスク、縄、ろうそく、シリンジ、バイブ、ローター、ブジー、ボディクリップ――ここにあるすべての品が装飾ではなく、実際のプレイに使用できる。  俺は彼の顔を横からのぞき込んだ。 「ようこそ、SMルームへ」  彼の目が瞠られた。 「あらかじめわかっていたのか?」 「俺の御用達だよ」  彼の顔に絶望と怒り、恐怖と諦めが浮かんでは消える。  俺は音高く両手を打ちあわせ、叫んだ。 「スタート!」  彼がビクッとした。 「お前は今から犬だ。人間じゃない。服を脱げ」  彼がのろのろとソファのそばに行って鞄を置き、スーツの上着を脱ぐ。俺は壁に行って掛けられた鞭を取った。 「遅い!」  キャットオブナインテイルを振るうと、彼はまだ反抗的な目を見せつつも、急いで全裸になった。  様々な道具を整然と並べた棚から首輪と手錠を取り、拘束した。  彼の目に絶望の色が濃くなることで心が躍る。  首輪をつかんで広い浴室に促した。 「床に横向きに寝ろ」  冷えた浴室の床にぎこちなく身を横たえた彼から見えないところで用意されているものを取り出した。  細いノズルを肛門に差し込む。 「あっ」  かわいい声が上がった。だが、遠慮なく容器を押して薬液を注入する。容量の大きいものを二つ。それからアナルプラグを差し込んだ。  この部屋のいいところは、浴室を含めていたるところに鏡が設置されていることだ。今も鏡で彼の表情が見える。唇を噛んでいるのが色っぽい。 「起きて、おすわり」  命じたとおりに、彼は犬のように脚をM字に開き、手錠のかかった両手を股間の前に置いた。  俺は鞭を振りながら、彼の表情の変化を楽しむ。  屈辱に耐えていたのが、薬液の作用への焦りに変わる。静かな浴室に、微かにぐるぐるという腸の音も聞こえた。顔が赤くなり、額に脂汗がにじみ出した。  さあ、どうする?  それでもまだ耐えていた彼が、ついに顔を歪め、きつく目をつぶった。 「ト、イレに、行かせて、くれ……」  俺は床に鞭を振るった。音に目を開けた彼がすくみ上がり、そして一層苦しげに息を吐いた。  顎を掴んで上向けた。 「お前は犬だ。犬用トイレはない」  彼が微かに呻く。俺は微笑みながら、髪をなでてやる。 「そんなに出したいのか?」  頷く彼の髪を鷲づかみにして、仰向ける。 「犬でも言葉は話せるんだろう?」 「――だ、したい」 「お、ね、が、い、し、ま、す、だろう?」  髪が引きつれる痛みにか、恥辱にか、彼の目が揺らいでいる。 「出し、たいです。お願い、します」  俺は髪を放すと浴槽に向かい、そこに隠されていたものを持って戻ってきた。 「ここになら出していいぞ」  差し出したのは金だらい。 「犬用トイレの代用だ」  何かに救いを求めるように、彼は目を閉じた。だが、救いの手などありはしない。 「嫌なら片付けるぞ」と金だらいを持ち上げる。 「待っ、待ってください!」  彼がすがるような目をした。 「それに、ださせて――ください」  俺は微笑み、彼の脚の間にそれを差し入れてやる。 「さあ、思い切り出すといい」  アナルプラグを一気に引き抜いた。  破裂音とともに腸内の汚物がびちゃびちゃと金だらいを叩く。音すらも屈辱なのは、彼のきつくつぶった目でわかる。手錠で耳は塞げないのだから。  出し切った彼ははあはあと息を乱していた。 「ずいぶん出したな。えらいえらい」  彼の頬は涙に濡れていた。だが、まだこの程度で泣いてもらっては困る。  金だらいを浴室の隅に設置された汚物を流すための流しに運ばせた。そこに中身を流させ、たらいを拘束した不自由な手で自ら洗わせる。  その間に俺も服を脱いだ。  金だらいを点検し、よしよしと頭を撫でる。  それから、体を洗ってやった。ボディソープを手につけ、ヌルヌルと全身をなで回す。  彼は背筋と内股、乳首周りが特に敏感だった。  シャワーでソープを流し、白いバスタオルで四つん這いにさせた彼を拭いてやる。  犬には尻尾が必要だ。  俺は長さ順に並べられたアナルパールから先が細目のを選びだした。ローションをまぶすと、彼のさらけ出されている穴にねじりこむ。 「あっ」  彼が顔からカーペットの上に突っ伏した。上を向いた穴にそっと出し入れしてやる。 「あ、ああ……う、く……」  腰が揺れ出している。 「まだ、入り口だけなのにそんなに感じるのか、エロ犬」  正面の鏡に映った顔に、また怒りがほのかに見える。  そうでなくては。  力を込め、中へ押し進めてやった。 「ああっ」  背がのけぞった。当たったのだろう、前立腺の裏に。 「ほら、しっかり立て」  軽く鞭を振るって折れていた肘を伸ばさせる。  彼の雄がすっかり猛って、透明の液が糸を引いた。  俺はそこを観察しながら、前立腺責めを続けた。  彼の呼吸が切迫し腰が震えてくると止めてやり、呼吸が落ち着くとまたゆるゆるとアナルパールをぶつぶつと出し入れして刺激してやる。 「あ、んん、あん、あああ……」  だんだん声を漏らしやすくなってきた。ほくそ笑みながら、中を玩ぶ。カウパーはだらだらとたれ続け、SM用エリアのカーペットの染みが広がっていく。 「い、かせて、ください」  ついに彼は音を上げた。 「駄目だ」  俺は即座に彼の根元にシリコン製のバンドを取り付けた。  彼が小さく呻いた。罰として背に鞭を飛ばす。思わず身をよじった彼は、自らを貫くアナルパールを自身で快楽の源に導いたらしい。 「やあぁぁっ」  今までにない大声を上げた。  俺は再び主導権を取り、アナルパールを奥へと突っ込んでいった。  彼は自ら腰を揺らし始めた。 「ああ、もうこれでは物足りないのか」  俺は一気に引き抜いた。 「ひぁぁぁー!」  彼が叫んで、くずおれた。俺は彼を放置して次の玩具を選ぶ。今度は大きめで同じ大きさのパールが連なったものだ。 「さあ、来い」  俺は彼を座面がU字型の椅子に座らせ、腿と腹部をバンドで締め付けた。電動で少し傾けると、さっきの玩具でほぐれて赤く色づいた穴が鏡に映り、彼自身にも丸見えになった。 顔を背けた彼の顎を掴み、囁く。 「ちゃんと見ていないと、いつまでもここのバンドを外さない」  反り返った雄を指でなで上げてやる。  彼が顔を鏡に向けて、目を開けた。俺と視線が絡む。俺は微笑みかけて、彼の髪にキスを落とした。  顔をしかめる彼の前に、さっき選んだアナルパールを見せる。 「今からこれを入れる。腹いっぱいになって気持ちよくなれる」 「そんな、無理だ!」  パール一つの大きさが四センチほどの直径があることに彼が怯えた。 「犬は無理だなんて言わない。さあ、よく自分の体を見ていろ」  パール一つに丁寧にジェルをかけ、彼のそこに押し当てた。 「やめてっ、ああ!」  ずるりとパールは飲み込まれた。  荒い息をつく彼に俺は囁く。 「簡単に入ったぞ」  彼の首筋までが羞恥にか赤く染まった。 「ほら、よく見てろよ」  俺は次々とパールを入れていく。増えていくごとに、彼がヘッドレストの上で髪を振り乱し、手錠をガチャガチャとさせて悶える。 「最後の一つだ」  彼の耳に息を吹きかける。 「ほんとうに、もう、無理……」 「そう言いつつ、いくつ飲み込んだんだ、この淫乱な尻穴は」  彼のそこを撫で上げ、膨らんだ下腹を押さえ気味にさすった。 「ああっ、いやだ!」  すかさず鞭を振るう。 「言うとおりにできない悪い犬は、このまま部屋の外に放り出すぞ」  彼の目に怯えが兆した。  俺は微笑んだ。 「さあ、最後の一個を入れて欲しいか?」  引きつった顔で、うわずった声で彼が求めた。 「い、入れてください。お願い、します」  俺は彼の髪を撫で、パールにジェルをまぶし、ゆっくりと押し込んでいった。  椅子の上で彼がのけぞる。 「ああ、いきたい……げんか、い……いかせて」 「いいよ」  俺は彼の根元を止めたバンドを外した。その途端白濁が彼の顔の方まで飛び出した。 「あらら、本当に限界だったんだ」  俺は彼の顔にとんだそれを指先で拭った。息をするために開いていた彼の口の中に指を入れる。彼は噛まなかった。彼の舌に自身の白濁をなすりつけてやった。 「自分の味はどうだ?」  彼は吐き出したそうな口の動きをしたが、諦めたように飲み込んだ。 「飲み込めてえらいぞ」  俺は彼の腹をさっきよりも力を込めてさすった。 「あ、あ……」  彼の目が瞠られる。中のパールが前立腺を責め立てているはずた。遂情したばかりの雄がもたげてくる。 「そんな……」  そう言いながらも彼は尻をうごめかし、快楽に反応してしまっている 「こうなったら胸にも飾りが欲しいだろう?」  俺は棚から軽めの錘の着いたニップルクリップを持ってきた。色の淡い乳首を挟んでやる。 「うう、いた、いたい、です」 「嘘をつけ。気持ちいい、だろう?」 「き、もち、いい、です」 「じゃあこっちも」 「くうっ……」  胸の錘を弄りながら腹をさすり続けると、彼の雄は再び力を取り戻し、自らの腹にあたっている。 「じゃ、そろそろ産卵させてあげるよ」  リングに指を掛けた。 「よく穴を見るんだ。卑猥にぱくぱくする穴を」  始めはゆっくり時間をかけ、そこが広がる感覚を味わわせた。徐々に出す速度を上げると、前立腺を叩かれるのか彼が悲鳴を上げた。 「ああぁぁー!」  パールから解放された瞬間に、彼は二度目の遂情をし、また腹に自らの白濁をまき散らした。  俺は彼を椅子から下ろすと、首輪を掴んでベッドに投げ出した。手錠をはずす。  彼ははあはあと口で息をしている。快感のあまりにこぼれた涙の跡を拭ってやる。  うつ伏せにして、腿の横に座った。  右手で鳥の羽で作られた箒で背筋から尻穴までを、脇の下から腹までをくすぐる。  ぞくぞくしているのが粟立った腕でわかる。  それと同時に穴が窄まらないよう、左手の指を中に三本差し入れバラバラに動かしてやる。 「ああん、ん……ふっ、うっくう……」  身悶える彼は背中の刺激と中の刺激で無意識にシーツに雄をこすりつけ、もう一度上り詰めた。  驚くほどに素直な体だった。  俺は彼を仰向けに転がした。両腿を左右に大きく開かせ間に入ると尻が浮くほど腿を胸に近づけて、俺は初めて彼の体を犯した。一気に奥まで突くと彼は甲高く啼いた。もう声を抑えていない。 「あの男の、どこが、好き、なんだ?」  俺は今までの玩具では届かなかった最奥の快楽点を責めつける。  彼はもうひいひいとさえずるばかりだ。  胸のニップルクリップが激しく揺れる。邪魔だ。乱暴に外すと彼が「いっ」と息を詰めた。  彼の体からいったん己を引き抜くと、痛みを和らげるように小さな乳首を舐めてやる。まだ付き合いが浅いのだろうか、尖り具合も鈍い。だが、感じることは感じている。舌先で転がし吸い上げてやると、声が甘く変わった。  胸への愛撫を止め、再び彼の中へ押し入った。入り口から奥までゆっくりとした深いストロークで犯し尽くす。 「こうして、あんたを、俺に売って、契約を、取ろうとする、浅ましい男の、どこが――」  彼は首を左右に振った。その手はシーツを必死に掴もうとしている。 「抱きつけよ!」  手首を掴んで、俺の首に回させようとするが、それを拒んでシーツに爪を立てる。 「あんたは馬鹿だ」  そう言うと結腸まで激しく責めて、何度も上り詰めた。彼の後孔がごぼごぼと空気と水の混じった音を立てても許さなかった。  目が覚めるとシャワーの音がしていた。バスルームに行くと、彼も気がついて俺に頭を下げた。  抱きすくめると、振りほどかれた。 「昨夜一晩のお約束です」 「これからも同じように売られるぞ」  負け惜しみだとわかっていたが、口を突いて出てしまった。 「それは私どもの問題です。あなたに気にしていただかなくても結構です」  鋭い視線にカッとして、手を振り上げていた。彼も打たれることを覚悟するように目をつぶり、首をすくめた。  俺は手を下ろした。  恐る恐る目を開けた彼は衝撃が来なかったことに驚いたように見えた。 「俺が支払って先に出る。あんたは少し時間をおいて出ればいいだろう」  彼が目を開け、首を振った。 「いいえ、一緒に出ます。けじめですから」  何がけじめなのか、俺にはわからなかった。  キャッシャーで支払いをして朝の通りに出ると、問題の男がいた。  けじめというのは、朝まで客と一緒にいたかを確認すると言うことか?  そいつは客先である俺に頭を下げると、彼に駆け寄り話しかけた。彼は何かを黙って聞いている。  俺は駅まで別の道を通ろうと背を向けた。  バシン!  肉をうつ音に振り返ると、彼が呆然とする男をおいて、向こうへ歩き去る後ろ姿が見られた。  俺は口元に笑みが浮かぶのを抑えられなかった。  JRの駅に着くと人混みの中から声がした。 「おはようございます。奇遇ですね」  彼だった。  奇遇も何もホテル街の別の道を通って最寄りの 駅に来ただけだ。 「途中までご一緒しませんか」  彼はすっきりとした顔で俺にそう言った。 「是非」  俺は笑いを堪えながら、頷いた。 ――了――

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