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第56話
「それになんだよさっきの先輩は...お前、今すごい女たらしだって聞いた...さっきの先輩もそういう目的で一緒にいたのかよ」
話しながらゆっくりと啓吾に近づいていく。
一度感情を表に出すと、歯止めが効かなくなり想いが溢れだしてくる。
「なぁ、なんとか言えよ!なんでそんなになったんだよ!なんで俺のこと...避けたりするんだよ...っ」
「...いいたいことはそれだけか」
「...はっ?」
すぐ後ろに近づいた時、啓吾はゆっくりとこちらを向いてきた。――と、同時に那智は強く腕を掴まれた。啓吾はすぐ目の前にあった空き教室の扉を開けるとそこへ那智を放り投げた。
「痛っ、なにすん...うぐっ!」
床に腰を打ちつけ痛みに耐えながらも再び立ち上がろうとしたが、急に脇腹に痛みが走り那智は脇腹を押えて床に倒れた。
―啓吾に、蹴られた...?
生理的な涙を浮かべながらこの痛みを与えた張本人を睨んだ。
「なん...で...う゛っ!」
だが啓吾は何を答えるまでもなく今度は腹を蹴ってきた。
―なんで...何でこんなことするんだよ、お前が...こんな、
「俺が何をしたって...」
すると啓吾は蹴るのをやめ、ニヒルに笑いながら那智の上に跨ってきた。そしてゆっくりと顔を近づけてくる。
「何をしたかだって?はははっ、なんでだろうな。それよりもさ、相手しろよ。あの先輩の代わりに、お前が」
「っ、な...何言って、」
一瞬啓吾の言っている意味がわからなかった。
相手をしろ...?先輩の代わりに...?
「変な冗談言うなよ...まじ、笑えない」
那智は冷や汗を掻きながらなんとか啓吾が発した言葉を受け流そうとした。
でも啓吾はただニヒルに笑っているだけだった。
そんな啓吾に那智は蹴られた時には感じなかった恐怖感を感じた。
「い...嫌だっ、嫌だ...そんなこと、したくない...っ、」
それと同時に那智は上に跨っている啓吾をなんとか自分からどかそうと腕を振り上げ殴ろうとした。
しかしその前に両手首を掴まれ上にまとめられる。そうして那智の抵抗は一瞬にして止められてしまった。
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