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第76話
「やっぱり清水そんな感じなんだ」
“そんな感じ”きっと湊は清水の噂のことを言っているのだろう。
「うん...」
「...お前、大丈夫か?その...こないだも話の途中でどっかに走っていくし。あの時、俺が言ったこともあんなんだったから電話とかメールもなんか気恥ずかしくなって何もできなかったから...」
湊の方を見ると頬を少し赤く染めて目線を下にはずしていた。
しいて言うなら、これが湊の照れている時の顔なのだろう。
―ズキ...
あぁ、なんかなぁ。
湊は俺の気持ちを知らない。だからこんな風に照れたり、嬉しそうな表情をしたりするんだろうな。
せっかく湊に心配してもらえたのに、胸が痛くて那智はどんな表情をすればいいか分からなくなる。
「おい...本当に大丈夫か?」
「、っ!?」
すると湊は急に那智の左頬を優しく撫でてきた。
その行動によって一気に顔が熱くなり、特に湊が触った場所に熱が集中していく。
「人前でイチャついてんじゃねぇよ。めざわり」
「けい、ご...」
那智がドキドキと心臓を高鳴らせていると、すぐ近くからイラついた口調でそう言葉を投げかけられた。
振り向くとそこにはムスッとした表情の啓吾の姿。
「おう、清水。俺、お前を探してたんだよな」
「俺はお前に探される理由は思いつかねぇな」
それだけ言うと啓吾は湊...そして那智を睨み、鞄を机に置いてそのままどこかに行こうとした。
「ま、待てよ啓吾!ちょっ...おい!」
啓吾は那智の呼び掛けには反応せずにそのまま歩いていってしまう。
「待てって言ってるだろ!」
あわてて那智は席を離れて啓吾の元へと走り寄る。啓吾は教室を出て廊下を歩いていた。
目と鼻の先ほどの近さにいて、腕を掴もうと手を伸ばす。
「啓吾!会いたかった!」
だがそれは突如、那智と啓吾の間に入るようにして現れた男子生徒の存在によって阻まれた。
そして同時に那智はその存在を確認して一瞬固まる。
「...のぞ、む?望むなのか?久しぶりだな、お前ここに転校してきたのか」
「あぁ!日本に戻ってこれることになって!啓吾を驚かせようと思って内緒で転校してきたんだ」
啓吾に抱きつき、楽しそうに会話をしている生徒...
その生徒は湊とキスをしていた奴だった。
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